フルメタル・パニック! マジで危ない九死に一生?【小説】
2019/10/16
SFアクション超大作シリーズ本編が出されたあとに刊行された短編集です。フルメタル・パニック!は、ハードなミリタリーアクションと学園ラブコメの2面性を持つ作品で、この設定は古くから少年少女による地球防衛が常識化している日本のアニメではそれほど目新しいものではありませんが、リアリティという点で卓越しています。ありえないことを実際に起こりうるかのように表現することにかけては、本作は他を寄せつけません。
その本編が感動のラストを迎えたあとにこうして短編集が出たことはファンにとってはひじょうに喜ばしいことで、日本の学園生活にけっきょく馴染むことができなかった相良宗介が繰り広げるドタバタ劇が帰ってきたことに何より胸躍ります。
与太者のルール:陣代高校のサバイバルゲームの愛好家たちが、生徒会に同好会設営の許可を申請したところ、林水会長は、安全保障顧問の相良宗介を倒したら設営を認めるという条件を出します。愛好家たちは、常々宗介をねじ伏せている千鳥かなめを味方につけることで、宗介を打ち倒そうとします。ひょんなことから宗介と感情の行きちがいがあった かなめは打倒宗介に加担することになります。
ご近所のサーベイヤー:かなめの住むマンションの清掃員のおばさんに、ゴミの分別違反をしたと誤解された彼女は、遅刻を回避するために身に覚えのないゴミを抱えて登校することになります。おばさんとはそのまま犬猿の仲になると思いきや、のちに彼女の意外な側面を知ることになります。
つぶらなテルモビュライ:常盤恭子と共に宗介が参加するというイベントに行く かなめですが、例によってミリタリーオタクなものとかと思えば、見渡す限りのボン太君。彼は以前にボン太君の着ぐるみを軍用に改造して製品化しようとしたことがありましたが、それが関わっていたようです。そしてそこへ武装集団が襲撃してきます。
テッサの墓参り:アマルガムとの熾烈な最終決戦のあと、テッサは人工知能アルと共にあるの開発者で今はなきバニ・モウラタの故郷を訪ねます。アーバレスト、レーバテインと姿を変えたアルですが、今は本体を遠く離れた場所に置き通信で等身大ASアラストルを操りテッサに同伴しています。これまで謎のままだったバニとテッサとの関係が明らかになります。また、バニの墓前で瞑目するアラストル姿のアルにも感慨深いものがあります。
短編集最後の作品は、長編シリーズで語られたミスリルとアマルガムの戦いの後日談ですが、戦いを終えて普通の人としての暮らしを取り戻しつつあるテッサやマオの日常を垣間見ることができるとともに、人工知能アルの夜明け感じさせるエピソードになっています。世界はひとまず平和を取り戻しましたが、またいつどこでブラック・テクノロジーを行使したテロが勃発するかも知れません。その時、彼女や彼らは、また立ち上がることになるのでしょうか。
後日談は、それだけで1冊を費やす長編として描かれてもよかったのではないか、そんな気がしました。本作と親しんできた多くのファンにとって、愛すべきキャラクターたちのその後はひじょうに気になるところですから。
長きに渡って付き合ってきたシリーズの終わりというのは、なんとも寂しいものですね。と言いつつ、終焉を経験したのはもう9年も前のことだったりします。今回、感想を書くために正編及び短編集を発行順に再読しました。
しかしながら、まだ未読のものもあります。正編を補完する外伝「サイドアームズ」2編。これから読もうと思います。そして、アニメの方は、正編の最終章へ向けて続編の製作が決定しています。人気作品のアニメ化はしばしば原作が完結しないうちに中途半端なエピソードが描かれることが多いのですが、この作品に関しては原作の最後までアニメ化される可能性がひじょうに強いです。楽しみですね。
製作を担当する京都アニメーションが悲惨な事件に遭遇し、大きなダメージと人的犠牲を被りました。前作に携わったスタッフも犠牲になりました。でもこのまま終わりにはしない、そう信じています。どんな苦境に立たされてもあきらめることなく前進し続ける、そのことをファンたちに伝えてきたのは、ほかならぬアニメ制作現場の人たちなのですから。
2010年、富士見ファンタジア文庫。
著者:賀東招二。