フルメタル・パニック! ずっと、スタンド・バイ・ミー
【小説】
2019/09/25
今やわずかばかりの残党と化したミスリル西太平洋戦隊は、アマルガムとの最終決戦に臨むべくトゥワハー・デ・ダナンをメリダ島へ向けます。かつて彼らの拠点だったメリダ島は今やレナードたちに占拠されていました。そこに建造された TALTAROS と千鳥かなめを使って世界をあるべき姿に戻す、それがレナードやミスリルを裏切ったカリーニンの目的でした。
その一方でアマルガムは、アフガニスタンの核兵器基地を占拠し、核ミサイルを起動しようとしていました。テレサ・テスタロッサは、残り少ない人員を2つに分け、メリダ島とアフガンの制圧の策を講じます。
メリダ島には、マデューカス、整備兵のハリス、相良宗介とレーバテインが向かい、アフガンにはマオ、クルツ、クルーゾーらが向かうことになりました。
メリダ島では、アマルガムに情報操作された米軍の艦隊と3機のベヘモスが待ち受け、アフガンではファウラーとサビーナがラムダドライバ搭載機で待ち受けています。
死地へ向かう最終決戦を前に、テッサは、希望者の除隊を許可しますが、多くの兵士が自らの意志で彼女の指揮下で作戦を継続することを希望します。
しかしそれでも、兵力も残された時間も全然足りておらず、それは不可能を可能にするような作戦でした。
ミスリルとアマルガムの最後の決戦を描いた、シリーズ最終巻です。上下2巻の分冊になった大ボリューム編です。
かつて、ロシアのヤムスク11で、TAROS すなわちオムニ・スフィア転移反応の実験が行なわれ、ウィスパードと呼ばれる能力者が誕生して以来、世界にはブラックテクノローがもたらされ、アーム・スレイブやトゥワハー・デ・ダナンといった数十年先の未来の技術を搭載した兵器が次々と出現しました。
そのウィスパードのひとりレナード・テスタロッサは、TALTAROS(オムニ・スフィア転移反応時空通信変容炉)を新たに建設し、千鳥かなめを使って世界をブラック・テクノロジーの存在しないあるべき姿に戻すことを計画していました。彼がアマルガムの幹部になったのはそのためだったんですね。
では、アマルガムはどういった経緯と理由で設営されたのでしょう。アマルガムによる全面攻撃によって崩壊したミスリルの創設者マロリー卿がこの2つの勢力の意外な関係について証しています。
ヤムスク11での事故の際に犠牲になった少女ソフィアの精神は、千鳥かなめの中で息づき、TALTAROS で世界を変容させようとします。それによって異常な世界を元に戻し、そのせいで亡くなった人々も蘇らせる、それがソフィアの願いでした。
レナードがソフィアのことをどう思っていたのかは判りませんが、彼と彼女の思いは同じでした。ところが双子の妹のテッサは、これに反対しトゥワハー・デ・ダナンを設計して自らその艦長に就任し、兄の計画を阻止しようとしていたわけです。
この壮大な物語は、テスタロッサ兄妹の兄弟げんかであったとも言えます。とは言えマロニー卿がこれを支援するためにミスリルを創ったわけではないんですけどね。
最終決戦は、これまでにもまして熾烈でした。ダナンも各ASも満身創痍で核心に迫ります。身を切らせる以外に敵地に飛び込む方法はありませんから。
アフガンでは、こちらの通常AS3機に対して、敵はファウラーとサビーナのラムダドライバ搭載機、メリダ島では米軍の潜水艦および巡洋艦の艦隊がトゥワハー・デ・ダナンを待ち受けます。こちらにはレーバテインというラムダドライバ搭載機があるものの、カリーニンが仕掛ける布陣とレナードのベリアルは鉄壁です。
それでもミスリルは、なんとか敵をしのいで核心に迫ります。しかし、マオとクルーゾーのM9 ガーンズバックは大破、サビーナは巡航ミサイルの暗号を解いて発射ボタンに手をかけます。
ダナンは、海中ドッグからミスリル基地に進攻し白兵戦を挑み、目前となった TALTAROS の機動を阻止しようとしますが、テッサたちは敵に囲まれてしまいます。そしてベリアルが繰り出した突きが、レーバテインの操縦席を貫きます。
世界はレナードやソフィアの計画通り、あるべき姿に戻ってゆくのでしょうか。ブラック・テクノロジーが存在せず、ASもなく、テッサやかなめもウィスパードではない世界、ヤムスクの事故がなければ死ななくても済んだ人々が蘇った世界。それは彼らが言うように今よりも良い世界かもしれません。しかし、テッサや宗介、かなめやミスリルのみんなは、そこへ還ることを拒み、たとえ茨の道でも今ある現実を守ることを選びます。
長きに及んだミスリルとアマルガムの戦いは、憎しみのぶつけ合いではありませんでした。状況がちがえば、レナードたちとは解りあえたはずでした。そして宗介を息子のように育ててきたカリーニンの思いは。陣代高校で かなめたちを待つ学友たちは。
鬼気迫るスリルを堪能してください。感動の嵐に胸を熱くしてください。SF超大作、歴史的な傑作巨編がいよいよ完結を迎えます。
2010年、富士見ファンタジア文庫。
著者:賀東招二。