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ささやかな頼み【小説】

2019/06/03


 シングル・マザーで育児日記をブログで公開している人気ブロガーのステファニーは、幼い息子マイルズと仲の良いニッキーを通じてエミリーと知り合いになります。有名デザイナーのデニス・ナイロンの会社でPRディレクターを務めるエミリーは、庶民的なステファニーとは異なり洗練された女性で高級住宅に住んでいましたが、2人はすぐに意気投合し、友だち付き合いが始まります。
 多忙なエミリーのために幼稚園の送り迎え、あるいはニッキーを預かるといったことをしているうちに、互いの家を当たり前のように行き来する中になりますが、エミリーは忽然と姿を消してしまいます。
 エミリーの夫ショーンは、出張先から帰宅するとステファニーと共に精力的にエミリーを捜索しますが、彼女は変わり果てた姿となって帰ってきます。湖から回収されたエミリーの遺体は、見る影もないほど傷んでいましたが、ショーンの母の指輪といった物証やDNA鑑定の結果は死体がまちがいなく彼女であることを示していました。
 ステファニーとショーンは共同で子供たちを育てるようになり、同棲するようになります。すると、子供たちが死んだはずのエミリーを見たと言うようになり、やがてステファニーにエミリーから電話がかかってきます。

 映画「シンプル・フェイバー」の原作小説です。映画ではステファニーが主人公で、終始彼女の視線でストーリーが進みます。小説でも前半はステファニー目線の話しになり、彼女の見聞きしたものや彼女の思い、彼女の過去について知ることになりますが、第2章になると主人公はエミリーに変じ、ステファニーはエミリーが捉えた客観的な存在になります。死んだと見せかけて行方をくらまし、じつは死んではいなかったエミリーは、映画では悪役ですが、小説ではそうではありません。エミリーは確かに自らの死を偽装しますが、その行為に秘められた彼女の思いが綴られている第2章では彼女はあきらかにヒロインです。そしてブログで優秀な育児ママを演じていたステファニーの思わぬ側面が暴露されることになります。第3章になると、ショーン目線の話しがこれに加わり、彼が何を思い何を考え、どんなふうに事件に関わってゆくかが解ります。
 後半から小説はかなりストーリーが変わっており、筆者は断じて小説の方を推したいです。映画のステファニー主人公、エミリー悪役のストーリーよりも数段おもしろいです。小説版のおもしろさは、ショーン目線が加わる第3章から一気に加速します。

 第1章ステファニー編では、最初は主に彼女のブログの羅列が続き、彼女がどれほど熱心で優秀なママかが印象付けられますが、エミリーと出会い、彼女に自分の過去を吐露したりする中で、ステファニーの健全とは言えない側面が見え始めます。彼女の亡き夫ダニエルは、ステファニーに対してずっと疑惑をもっていました。それは彼女が異母兄のクリスと浮気しているのではないかというものです。映画ではクリスは突然ひょっこり現れた知られざる異母兄弟で、ステファニーはエミリーにクリスとの1度きりの過ちを打ち明けますが、小説では彼との関係はずっと以前から続いており、ダニエルもそのことに気づいていたようです。そしてダニエルとクリスは寄ると触ると口論になり、あるとき2人で車で買い物に出かけ、2人とも事故死してしまうのですが、その原因を作ったのはステファニーだと、彼女自身が信じているようでした。
 このように健全ママを表で演じながら、クリスとの関係を隠し続け、エミリーが死ぬと夫であるショーンと肉体関係を持つようになる、ステファニーにはそうした品行方正とは言えない側面がありました。第2章のエミリー目線では、ステファニーはかなり悪者になっています。エミリーの計画についてはネタバレになるので触れませんが、ステファニーはエミリーの計画の要素として必要な存在でした。しかし、ショーンの思わぬ行動、そしてステファニーとの関係が計画を狂わせて行きます。

 エミリーが死んだことで、ショーンには巨額の保険金が入るはずでしたが、小説では保険会社の調査員プラガーが加わり、エミリーの死に疑問を抱くようになります。プラガーの参入により小説ではストーリーの行方がますます解らなくなってゆきます。そしてそのことが読者をグイグイ惹きつけます。このままではショーンは保険金を受け取れず、それどころかエミリーと共謀して彼女の死を偽装した保険金詐欺に仕立てられてしまいます。エミリーも警察から追われることになるでしょう。
 そこで2人が、いやステファニーを加えた3人が打った次の一手は、まったく予測不可能なものでした。

 小説の紹介では、ドメスティック・ノワールという表現がなされていましたが、一見して何の問題もない家庭が突然内から崩壊してゆくサスペンスみたいな作品を指すのでしょうか。妻の失踪に秘められた恐ろしい罠を描いた「ゴーン・ガール」なんかが好例ですね。人がうらやむような暮らしを送るエミリーとショーンの家族が、突然内側から崩壊してゆくわけですが、理想的な家庭にどんな不満があったのでしょう。なんでこんなことになってしまったのでしょう。

 現実の社会でも家族にかけられた保険金をだまし取ろうという事件は実在します。その多くは犯罪が立件され逮捕されていますが、もしかしたら詐欺に成功して悠々自適の暮らしを送っている未亡人が存在するかもしれません。ご近所の温厚そうで人の好さそうな未亡人が、じつは旦那の死に加担していた、そんなことを考えると背徳的なサスペンスを感じませんか? もちろんこれはブラックなユーモアであって、筆者のご近所にそうした方は存在しませんけど。
 人間生きているといつどこから思いもかけない脅威が迫って来るか判らない、そう思うと人生自体がサスペンスのような気がしてきます。

原題:A Simple Favor。
2017年、早川書房。
著者:ダーシー・ベル。

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