フルメタル・パニック! 同情できない四面楚歌?【小説】
2018/12/07
短編集第4弾。ついに本編の長編シリーズを上回ってしまいました。賀東招二の頭の中からは斬新なアイディアが次から次へと、いっぱいに開いた蛇口からほとばしる水のごとくあふれてくるのでしょうね。うらやましい限りです。
磯の香りのクックロビン:生徒会室に届いた荷物を解いてみると中から新鮮なサザエが出てきました。千鳥かなめは、それを家庭科室に持ってゆき、醤油を垂らしてぐつぐつと煮立てます。おいしく焼き上がった壺焼きをみんなにも分けようと生徒会室に戻ると、神楽坂先生と相良宗介が深刻な表情で話し合っています。聞けばOBの先生から送られてきた大変貴重な希少種の巻貝がなくなっているというのです。
追憶のイノセント:何かと謎の多い林水生徒会長ですが、かなめは彼がいかがわしい店に出入りし、人相の悪い男に金を渡しているところを目撃してしまいます。これは看過できる状況ではないと判断した かなめは独自の調査に乗り出すのですが、林水会長の知られざる過去が明るみになってゆきます。中学時代天才として将来を嘱望された彼が、周りの反対を押し切って陣代高校に入った訳があきらかになります。
おとなのスニーキング・ミッション:若い娘たちを商品にした風俗店がオープンし、しかも陣代高校の女生徒がそこで働いているらしいのです。事態を憂慮した林水生徒会長は、補佐官にして安全保障問題担当の相良宗介と副会長の千鳥かなめに潜入捜査を命じます。しかし林水会長の心配は、女生徒が風俗店で働いていることよりも、そのことを利用して学校側が生徒会の自治権に深く介入してくることにありました。会長としてはこっそりと客になっている先生の証拠をつかみ、それを楯に学校側の介入を阻止したかったのです。身を挺して店に潜入した かなめが見たものは、想像していたイメクラとはいささか異なる営業内容でした。しかも同行したはずの宗介がちゃっかり客になっているのでした。
エンゲージ、シックス、セブン:ミスリル西太平洋艦隊の SRT(特殊対応班) に2名の欠員ができ、メリッサ・マオが曹長に就任しウルズ2のコードネームをもらったばかりの頃、早急に欠員を埋める必要があったマオは、ベリーズの訓練キャンプを訪れます。ここは彼女にとっても懐かしい訓練施設で、訓練生の中から彼女が命を預けられる優れた人材を見つけ出そうというのです。学識や技術、戦士としての資質を評価できる候補者を何人か絞りますが、なかなか踏ん切りがつきません。そこへイケメンだが軽薄な生意気野郎と、無口で根暗な日本人に遭遇し、すっかり調子が狂っていまいます。2人は兵士としての資質は月並みであると自認し、意欲ややる気が見えません。そこへ重大な事件が勃発し、マオはそれに対応することになります。
相変わらずおもしろいですね。クックロビンとスニーキング・ミッションはとにかく笑えるお話しですが、追憶のイノセントとエンゲージ67は、感動の人間ドラマになっています。前者は謎多く良からぬうわさの絶えない林水生徒会長の過去が明らかになり、かなめは彼への信頼を深めることになります。後者は、マオがクルツ・ウェーバーと相良宗介をベリーズキャンプで発掘するときのエピソードですね。傭兵暮らしの2人はとりあえずベリーズキャンプに来てみたものの、謎だらけで先が見えません。こんなところで自らの才能をフルに発揮するのは愚行だと判断し、能力を隠しているのでした。しかし事件に巻き込まれ、マオに協力すことになった2人は、猫を被っていられない状況に立たされます。
短編集はおおむねコメディになっていますが、最後のエピソードは、マオやクルツ、宗介の回顧録でコメディ要素はほとんどありません。本編ではないものの彼らの過去を知る重要なお話しになっています。
そう考えるとサイドエピソードの重要人物である林水会長の過去が明らかになるお話しも重要ですよね。今回の短編集は主要キャラの素性を明らかにしたガイドブック的要素の多い内容でした。
2000年、富士見ファンタジア文庫。
著者:賀東招二。