kepopput.jpg

焼肉ドラゴン【映画】

2018/07/15


 1969年、万国博覧会を翌年に控え高度経済成長に活気立つ日本で、在日韓国人たちは雨漏りのするあばら家に身を寄せ合って暮らしていました。すぐ近くには大阪空港があり、飛行機が耳をつんざく爆音を立てて離着陸します。龍吉と英順夫妻が営む焼肉店は、龍吉の名をとって"焼肉ドラゴン"と呼ばれていました。
 長女の静花、次女の梨花、三女の美花が同居し、静花は店を手伝い、梨花は外に働きに出ていました。息子の時生はまだ高校生ですが、私立高校に合格したものの韓国人だからと激しいいじめに遇っていました。
 静花は子供の頃に幼馴染の哲男と飛行機を見に空港に忍び込んだ時に負った怪我で片足を引きずっており、自分の将来を悲観的に考えていました。哲男は今でも静花に思いを寄せていましたが、けっきょく次女の梨花と結婚することになります。そして美花には、キャバレーの経営者で妻のある長谷川という愛人がありました。
 焼肉ドラゴンには、3人の娘たちを目当てに男たちが集まり、いつも常連ばかりでにぎわっていました。
 時生はいじめのせいで登校拒否になり言葉も思うように話せないありさまでしたが、日本で生きて行くためには日本の学校教育が必要と考える龍吉は、退学することを許しませんでした。
 妻と正式に別れた長谷川が、美花と結婚したいと店を訪れた時、母の英順は絶対に認めないと泣きましたが、龍吉は娘が選んだ相手を信じると判断します。龍吉は長谷川に古い話しをします。若い頃、仕事を求めて来日した龍吉は、結婚して2児をもうけますが、帰国の船が沈んで帰れなくなり、日本に骨を埋める覚悟を決めます。しかし戦争に駆り出されて片腕を失い、終戦後は働いても働いても暮らしは楽にならず、英順と再婚して美花と
時生が生まれました。子供たちはそれぞれの道を歩み始め、龍吉と英順はここで暮らしてゆく、それが彼の人生でした。
 華々しい発展を遂げる日本と裏腹に、在日韓国人の暮らしはどんなに働いても楽にならず、それでも愚痴ひとつ言わずに店を守り続けた龍吉と英順ですが、国は彼らの生活の場を国有地であると主張し、立ち退きを命じるのでした。

 戦後経済の高度成長期に湧く日本で、人知れずスラム街で貧困を味わっていた在日韓国人の悲惨な暮らしを描いた戯曲の映画化です。映像化に当たって監督、脚本を務めたのは、鄭義信(チョン・ウィシン)は、日本で学問を修めた韓国国籍の劇作家です。1957年生まれといいますから筆者と同世代の人ですね。大阪には生野区に大きなコリアンタウンがあって、筆者もむかしは朝鮮学校へ通う生徒たちの姿を見かけたものですが、最近はチマチョゴリをアレンジした制服を改めたようで、かつての独特の制服姿を見ることはありません。
 筆者らの年代では、韓国人に対する差別はなく、K-POPや韓国の電気製品を堪能するありさまですが、筆者の親世代には、韓国人を蔑視する風潮が残っていて、そういう話しを親からも聞いたことがあります。しかしその親世代の人たちも今は韓ドラにハマっていたりします。筆者の母親も嫁さんの母もそうです。
 しかし万博があった当時は、在日韓国人の暮らしはまだずいぶん虐げられたものだったようです。日本は経済成長を支える安い労働力として韓国人を歓迎し、韓国人も職を求めて来日したのですが、そのまま帰るところを失った人たちもたくさんいたようですね。

 三女美花の求婚者相手に日本での生きざまを語る父龍吉の話しは、ひじょうに生々しくそして感動的です。ロングカットの長ゼリフを流暢にこなしたキム・サンホの名演技はすごい迫力でした。壮絶な半生を語る彼の表情は、意外にもとても穏やかで、苦しい境遇や冷徹な政府の態度に対する批判はありません。彼は自分の人生を静かに受け入れ、巣立ってゆく娘たちを笑顔で見送ります。
 雨漏りのするあばら家を必死で守り抜いた彼とその妻、家族に対し、日本政府はどれだけ報いたのでしょう。経済成長の底辺を支えた彼らから搾取するだけして、居住権も認めず冷淡に立ち退きを命ずるお役人は、もはや人ではありません。組織という名の化け物の単なる部品です。
 日本の戦争に駆り出されて腕を失い、娘たちはバラバラに巣立ってゆき、焼肉店は重機によってあっけなく取り壊されてゆきました。夫婦2人に残されたわずかばかりの家財道具をリヤカーに積み、2人は舞い散るサクラを眺め「明日はきっとえぇ日になる」そうつぶやきます。どんな逆境にも屈することなく、前を見据えて生きる彼らの生きざまに胸が熱くなります。
 夫婦のその後は描かれませんが、国が熱心に建設を進めた団地にでも入ることができたのでしょうか。高度経済成長の波に乗って家電三種の神器のそろうあこがれの団地生活を送ることができたとしたら素晴らしいですね。
 筆者の両親が福井の田舎から大阪に出てきた当時は、アパート暮らしから始めて、自宅にトイレのある長屋に移り、お風呂のついた2階建ての長屋に移りと、暮らしがどんどん豊かになりました。幼少時代の思い出の中に、雨漏りや天井裏のネズミの運動会、車の通れない家の前の道は強い印象として残っています。焼肉ドラゴンのある袋小路は、ひじょうに懐かしい色合いの世界でした。
 万博当時、筆者は小学4年生でした。行きましたねぇ、万博。未来と外国人が手の届くところへ到来しました。筆者ら日本人は、まじめに勤めていればそれが報われた時代でしたが、在日韓国人たちはどうだったのでしょう。
 K-POPに魅せられて生野区のコリアンタウンに行く機会が増えましたが、焼肉ドラゴンのような悲惨な暮らしをしている人たちは見かけません。高度経済性成長は、在日韓国人をも少しはうるおしたんですかね。
 経済成長の時代には貧しくても希望がありましたが、現在の爛熟社会はひじょうに困ったことになってしまっています。でもね、希望は必ずあります。時代の最前線にいるのは権力者や資産家ではありません。少しでも多くの民衆が、社会の主役が自分たちであることに気づけば、世の中は好転します。それが大きな波となれば社会はたちどころに変貌します。過去からそうやって人間社会は進歩し続けました。

 この作品は、公開当初はそれほど高い評価を得ていなかったようです。映画の情報サイトでも、5つ星どころか3つ星がせいぜいでした。しかし、口コミで好評が拡がったのか、日増しに高い評価が増えつつあります。見たい映画登録者もどんどん増えています。素晴らしいことですね。
 夫婦を演じたキム・サンホとイ・ジョンウンの名演も素晴らしいですが、名だたる日本の俳優たちも韓国人の娘あるいは、その娘たちに惚れる日本人を熱演しています。激昂し、怒鳴り散らし、ケンカし、大声で泣いて笑って、汗だくで"人間"を演じています。
 また新たな名作が誕生しました。

2018年、127分。
原作、監督、脚本:鄭義信。
出演:真木よう子、井上真央、大泉洋、桜庭ななみ、大谷亮平、ハン・ドンギュ、イム・ヒチョル、大江晋平、宇野祥平、根岸季衣、イ・ジョンウン、キム・サンホ ほか。

コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

目 次
能書き

思うこと全般

けぽっぷ体験

アイドルのこと

韓流映画

番外編


索引 韓流映画&番外編





   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< August 2018 >>

サイト内検索

NEW ENTRIES










recent comment

links

プロフィール

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM