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赤い部屋【小説】

2018/06/23


 赤いカーテン引かれ丸テーブルの上にろうそくの炎がゆらめく、不気味な赤い部屋に7人の人間が集まっていました。そこは刺激を求めて集まった人たちが互いに奇談怪談を交換する会員制のクラブです。今夜の最初の語り手は新人会員のTでした。彼の話しはこうです。

 退屈を持て余し、人生のつまらなさに虚しさを感じていた彼が、あるとき交通事故を目撃します。加害者の男から近きに病院はないかと尋ねられた彼はM医院を教えますが、翌日被害者の老人が病院で息を引き取ったことをしります。TはとっさのことでM医院を教えてしまいましたが、そこはやぶ医者で有名で、近くにはもっと優秀な病院があり、Tが判断を誤らなければ老人は死なずに済んだのかもしれないのです。
 この一件でTは、直接手を下さず、罪に問われることもなく人を殺せることに気づき、以来殺人に憑りつかれるようになりました。
 盲目の按摩の青年に下水工事の穴があることを注意しますが、へそ曲がりの青年はTの忠告を聞かずに穴に落ちて死に、Tは思惑どおり青年を殺すことに成功します。
 小学生をそそのかし、帯電している避雷針の導線に小便をさせ感電死させる、これもまんまと成功しました。
 海で、友人の前で飛び込んで見せ、何も知らない友人がTに続いて飛び込み、Tだけが知っていた海底の岩に激突して死ぬ、これも成功でした。
 Tはこのようにしてこれまでに99人の人間を手を汚さずに殺してきたのです。
 そしてTの話しが終わる頃あいに給仕の女性が飲み物を持って現れますが、Tは記念すべき100人目の殺人を犯すべく懐中よりピストルを取り出します。

 目の前の人に危険が迫っていることを急告し、とっさに身をかわしたその人が自らその危険に陥ってしまう、注意喚起されなければその人は無事に危険を回避できた、そんなことを経験したことはありませんか? たとえば道端に汚物が落ちていて、そのことを前を歩いている人に警告すると、彼はそれをよけようとして逆に踏んづけてしまう、警告がなければ踏まずに通り過ぎたかもしれない、そんなことありますよね。警告した本人は親切心で注意したのだからとがめられる必要はありませんが、警告することによってかえって危険になることを期待していたとしてもそんな証拠はないわけです。
 そうした方法でTは99人の人間を殺してきたというのです。中には上手く行かなかったこともあるでしょうから、未遂も含め彼はは途方もない数の殺人を犯してきたことになります。そしてそれが退屈を持て余し、人生を不毛だと感じていた彼の心を満たしてきたというのです。
 そんな映画がありましたね。タイトルは覚えてなくて予告編しか見ていないのですが、富豪の男が満たされすぎて何事にも満足できず、自分を事故死させてくれるプログラムに金を払うというものだったと思います。満たされすぎて生きるのが嫌になるなんて贅沢にもほどがありますよね。その財力を恵まれない人たちのために使うことで生きがいを見出すべきです。金持ちというのはほんとどうしようもないですね。
 Tや赤い部屋に集まった会員たちも、満たされているゆえに禁断の刺激を求める愚者たちなのでしょう。西洋では貴族が使用人を虐待したり殺したりした猟奇的な話しが実話として多数残っていますが、満たされると頭がおかしくなる、そんな人も大勢いるようです。金持ちになるには資格と審査が必要ですね。もっとも成人君主は富を独占することを望んだりしないのでしょうが。

 むかし知人と殺人について話をしたことがあります。その知人は自分の殺人願望について筆者に打ち明け、人間社会にはびこる欺瞞や悪徳が彼の憎悪を喚起し、殺人願望を駆り立てるのだと言っていました。とくに彼は、若い女性を殺してみたいと言うのです。年若くして美貌や親の財力に恵まれ、周りを見下しているような人間を虐殺してみたいというのです。それで彼の憤懣が満たされるのでしょうか。
 筆者は、その気持ちは解らなくもないと言い、暴力や猟奇殺人をテーマにした映画を彼に勧めました。そして筆者が列車の運転士をしていて実際に人が死ぬところを目撃し、それが彼が想像するようなドラマチックなものでも残酷なものでもなく、ただ汚らしいだけですぐに人々に忘れ去られてしまう虚しいものだと話しました。
 彼は実のところひじょうに温厚で優しい青年で、困っている人や助けを必要としている人には進んで手を差し伸べるような人でした。そうした理性的な行動が彼の残酷な欲求を抑圧しているのかもしれないと、彼は自ら分析していました。

 人を殺人や重大な犯罪に誘うのは、その人の本性というより、境遇や状況なのかもしれません。江戸川乱歩のよに次々と犯罪の手口を思いつく人も、推理小説作家として大成していなければ、犯罪者として名を上げていたかもしれない、ふとそんなことを思いました。
 むかし読んだFBIのプロファイルについて書かれた書籍の冒頭に、怪物を追うものは自ら怪物になってはいけないと書かれてありました。敏腕捜査官は連続殺人の犯人の心理を洞察するプロで、その頭の中は犯罪者とあまり変わらない、ということなのでしょうか。

1925年、「新青年」掲載。
著作:江戸川乱歩。

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