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冷たい熱帯魚【映画】

2018/05/26


 社本熱帯魚店を営む社本信行、妙子夫妻は、娘の美津子がスーパーで万引きしたことでオーナーに呼び出されます。スーパーのオーナーは警察を呼ぶと一歩も引きませんが、その窮地を救ってくれたのがアマゾンゴールドという大型熱帯魚店を営む村田幸雄でした。村田の誘いで社本一家は彼の店を訪れ、美津子はそこで住み込みで働くことになります。
 窮地を救ってくれたうえ、ぐれた娘の面倒までみてくれるという村田に社本は頭が上がらなくなり、それから彼は村田に振り回されるようになります。妻の妙子も村田に魅力を感じるようになり、ビジネスパートナーになることを勧めます。
 後日、村田に呼び出された社本は、裏で行なわれている犯罪に巻き込まれることになります。村田は顧問弁護士の筒井と共に熱帯魚については素人の投資家吉田をそそのかし、日本では前例のない魚のブリードに1億円の投資を勧めていました。吉田は業界では堅実な社本が参加しているのならと契約書に判を押しますが、村田の妻の愛子が持ってきたビタミン剤が毒入りで、吉田はそれを飲んで死んでしまいます。
 これまで温厚で人なつっこい人柄だった村田の態度が一変し、社本を怒鳴りつけ、死体を山の中の小屋に運ばせます。今は彼は村田の共犯者になっているのでした。そこで村田と愛子は芳だの死体を小さな肉塊に解体し、焼却し、骨粉は川に流してしまいます。
 それから社本は、妻子を人質に取られたような格好になり、村田夫妻や弁護士の筒井に付き合っておぞましい犯罪に加担し続けることになるのでした。

 この作品は、埼玉愛犬家連続殺人事件という実際の事件をモチーフにしていますが、ストーリーやシチュエーションはまったく別物になっています。実話の関根夫妻は、映画よりもさらに多くの人を殺しており、自らを殺人のチャンピオンと称していたそうですから、すさまじいですね。映画の中の村田が、死人を焼却して証拠を隠滅してしまう作業を"死人を透明にする"と称していますが、それは関根の実際の言動であったようです。
 この作品は好きでDVDで何度か観ていますが、初めて見た時には、村田夫妻の死体解体シーンにかなりショックを受けました。SAWシリーズの残酷シーンを喜んで観ている筆者がそうなのですから、暴力や流血の苦手な人にはなかなかキツいと思います。殺害した被害者の死体を風呂場で小さく刻み、内臓や生首を弄んで笑うシーンはかなり強烈です。でんでんと黒沢あすかが演じる村田夫妻の迫力は圧倒的です。
 でんでんは、バイプレイヤーとしてはあまりにも有名で、彼の顔を知らない人はいないと思いますが、気のいい親父の役やら、今いちやる気のない政治家やら、そうした役どころが多いですが、今回の彼はすごいです、壮絶です。最初は饒舌で温厚な熱帯魚屋さんですが、やがて大変な自信家で周りの人間を強引に引っ張ってゆくやり手の側面が前に出てきます。そうして投資家の吉田を毒殺してからは悪鬼と化します。彼の演技には本当に驚かされます。映画史に残る名演です!

 恐ろしい殺人鬼ではありますが、村田の断行力は卓越していて、たちどころに周りの人たちの信頼を勝ち得、それが彼の自信と自らの行ないを信じて恥じない、とんでもないダークヒーローに仕立て上げてしまっているんですね。どんな手を使っても金を得たものが勝ちという資本主義社会では、出るべくして出現した偉人といったところです。村田のモデルになった関根は死刑囚になってしまいましたが、政治家になっていれば大勢の人々の犠牲と引き換えに真の英雄に成れたところです。惜しいですね。

 まじめで気が弱い社本は、彼のような男にどうして妙子のような女が後妻に来たのか不思議なのですが、その妙子も村田に誘惑され、彼に惹かれてゆきます。娘の美津子は母が亡くなって妙子が後妻に納まってからというもの社本をあからさまに嫌悪するようになり、これまた村田の手中に落ちてしまいます。妻子を人質に取られたような形になり、村田の言いなりになるしかない社本は、なんとも情けない男に見えますが、彼だっていつまでも負け犬ではありません。彼が徐々に変容して行き、村田に噛みつくシーンも見どころです。筆者は、でんでんの怪演もすごいと思いますが、吹越満が演じる社本にも大きな魅力を感じています。そして彼の巻き返しは、村田やその妻、社本自身の家族を巻き込んで絶望的な狂気へと発展してゆきます。
 
 エログロ映画が大好物な方には必見ですが、それ以上に、異常心理を生々しく浮き彫りにした人間ドラマとしてひじょうに高尚な作品だと思います。エログロを卑下してはいけません。人間の欲望を浮き彫りにするのに、エロスと暴力は重要なアイテムです。
 これは筆者が初めて観た園子温監督作品でしたが、その後、彼はこの手の映画をあまり撮らなくなってしまったような気がします。これ以前の作品の方が、筆者にとっては興味深いです。

2010年、146分。
監督、脚本:園子温。
脚本:高橋ヨシキ。
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲、裴ジョンミョン、諏訪太朗、三浦誠己、阿部亮平、坂田雅彦、瀬戸夏実、古藤ロレナほか。

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