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くちびるに歌を【小説】

2018/02/08


 以前に紹介した同名映画の原作です。産休を取ることになった松山ハルコ先生の代わりに合唱部の顧問を引き受けた柏木ユリ先生が、彼女の故郷の五島列島の島の小さな中学校で、NHK合唱コンクールへ向けて生徒たちと共に奮闘するお話しですが、柏木先生の設定が、映画では原作とはかなり変えてありました。映画の彼女は、上京して世界的に有名なピアニストになったものの、その後つらい経験をし、それを引きずっているせいでピアノが弾けなくなっていました。帰郷してからも心を閉ざした寡黙な先生で、美貌から男子生徒には人気があるものの、合唱部の女子生徒たちからは疎まれていました。
 原作の彼女は、とくに暗い性格でもなく最初からピアノを弾いていますし、Nコンの自由曲のために作曲までします。女子生徒たちとの確執もなく、彼女たちが柏木先生に反駁するのは、これまで女子だけでやってきたのに、スケベ心で入部してくる男子たちをホイホイ受け入れてしまうことに対してでした。

 原作では、部長の辻エリと発達障害の兄を持つ桑原サトルが交互に語り部となりお話しが進みます。辻エリは、家族を棄てた父に対する憎しみからことさらに男子たちの入部を嫌っています。そうしたなか、桑原サトルは、他の男子たちのように美人の先生目当てで入部してきたわけではありませんでした。先生に頼まれて合唱部の部室に荷物を運んだところを入部者とまちがえられ、その流れで入部してしまったのでした。
 サトルは、兄が自閉症でなければ自分は生まれてこなかったと思い込んでいました。将来両親がいなくなった後も、兄の面倒を見る兄弟が必要という両親の判断で自分は生を受けた、だから生涯兄の面倒を見るために生きて行くのだと、そう信じていました。
 彼は誰とも話さず、自分に兄がいることも秘密にしたまま、ずっと"ぼっち"生活を続けてきました。そんな彼が合唱部に入ると言い出した時、父親は無下に反対しましたが、母親は「お前が自分からなにかをお願いするのは初めてだ」と喜び、サトルの役目だった兄の送り迎えを引き受けます。サトルの兄は親戚の工場の手伝いをしていました。
 映画ではサトルは美声の持ち主として部内で脚光を浴びますが、原作ではそのあたりの描写はなく、"ぼっち"だった彼が、部内で受け入れられ、男子たちも彼を"友だち"と呼ぶようになり、次第に自己を確立してゆきます。

 最初は不真面目で練習にも気が入らなかった男子たちも、月日の経過と共に合唱の楽しさが解るようになり、合唱部は混声合唱としてNコンへ向けて練習を重ねて行きます。そして長崎で行なわれる地区大会への出場。しかし当日になって柏木先生の様子が変であることにみんなは気づきます。リハーサルの時のピアノ演奏も散々でした。生徒たちが問いただすと、松山先生が急に産気づき、合唱を見に来れなくなったばかりか、彼女はもともと心臓が悪く、出産には大きなリスクを伴うと言うのです。
 これを聞いて生徒たちも動揺してしまいますが、ある生徒が秘策を思いつきます。携帯電話を介して産室の先生にみんなの歌を届けようというのです。おかげでみんなに頑張る理由ができ、松山先生もみんなに励まされることになります。
 くちびるに歌を持て、それは、前を向いて明るく生きて行けという思いを込めた松山先生の言葉でした。合唱を通じてみんなの歌がひとつになる時、生徒たちはその意味を理解し、前へ進む勇気を持つことができるようになるのでした。
 合唱を通じて成長して行く生徒たちと、アンジェラ・アキの名曲「手紙〜拝啓十五の君へ〜」が重なります。

 映画では、生徒たちの成長と共に柏木先生の凍てついた心が氷解して行く様子が描かれますが、原作では生徒たちが中心となります。映画では描き切れない辻エリや桑原サトルの心理が克明に描かれていますので、柏木先生の影が薄くなっている分、生徒たちの成長がよく解ります。

2013年、小学館。
著者:中田永一。

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