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ディア星旅行記【小説】

2017/10/19


 大学生の穣治は、神秘の星ディア星への単独旅行に出かけます。ディア星は時間がゆっくりと流れる不思議な星です。1日は25時間1カ月は120日あって1年が480日。しかしこれはディア星での体感で、1年滞在して地球に帰ってくると、時は365日しか流れていません。
 穣治はディア星ではジョルジと呼ばれ、ディア共和国アゴ州グータランカ・ビーチにアフリカ出身のイスマイルという青年と共に同居生活を始めました。
 ディア星はかつてイギリスが統治していた植民星でしたが、星の人々は占領軍に対し無抵抗無服従を貫徹し、何万人殺されても意思を曲げず、これに根負けしたイギリスが手放した星でした。冬でも猛暑で、春と秋はさらに暑く、夏には身動きできないほど暑くなります。

 ジョルジは頻繁に悪夢に悩まされていました。死して魂が肉体から遠く離れたのち、暗黒の深淵の中で数万年かけて自己が完全に消滅して行くという恐ろしい夢で、頻繁に繰り返されるその夢からの解放を願って、異文化の星への旅を決意したのでした。
 ディア星では、様々な国の地球人旅行者と共に茶葉を喫煙し、密造酒を飲んで騒ぐ怠惰な日々が流れました。ディア星の茶葉には強い覚醒効果があり、意識が感覚や肉体から独立してトリップします。

 ある時ジョルジは、避暑地ルガナリスを訪れ、ディア教の求道者(ドゥーサ)のアナップと旅する娘スワナと体を重ねます。ディア教では、人から獣への輪廻転生を繰り返し、最後に完全な死に至ると信じられていました。繰り返す転生はインターバルと呼ばれ、最後の完全な死こそゴールであり、信者たちにとって生は幸福なものではなくゴールへ至ることが悲願でした。

 死期を悟った人々は、シナラバという場所に集い、静かに死を待ちます。その間は食を断ちますが、中には我慢できずに携えた薪代を飲食に使ってしまう者もおり、手に薪代を握っていない死者は火葬されないままンガンガ河に流されます。
 シナラバで川を見ていたジョルジを見つめる求道者(ドゥーサ)に何事かを声をかけると、呼んだのはそっちだと答え、人々はディア星に呼ばれてここへ来たこと、生きることに意味を求めてはいけないことを諭します。

 物語は、ジョルジの回想の形で進められ、ディア星北部のディア星の屋根といわれるアンナアンアの山々を旅したことや、他人に干渉しないクールな住人の町イベンボで、安宿救世軍に泊まった時の話しなどが語られます。イベンボで出会った子連れバンシーク(物乞い)の女性にお金を恵もうとしたところ、彼女はすでに絶命しており、翌朝になって死体が片付けられると、その娘はすでに自立していました。母の死を当然のように受け入れた幼い少女は、ジョルジの恵みに対して満面の笑顔を返し、それが彼にはひじょうに衝撃的でした。
 ディア星はどこもバンシークであふれ返っており、バンシークの子はやはりバンシークとして生きることしかできませんでした。5体満足のバンシークは物乞い生活に不利なので、彼らは手足や目を切り落としていました。多くの場合、親が幼い我が子の体の一部を切断します。それが彼らの親心でした。
 バンシークの生きざまに誰も同情せず、彼ら自身も自らの運命を呪うようなことはありません。
 ジョルジが懇意にしていた薬の売人の少年ロビンは、いつかお金を貯めて東京に行って稼いで、姉と食堂をやりたいと言ったいましたが、けっきょく中毒死してしまいます。
 モラルの欠如した究極の貧困がこの星には蔓延しており、それがここでの自然体なのでした。

 ディア星には様々な地球人が旅行者として、あるいは永住者として住んでいますが、いずれ似たようヒッピーたちで、ここではそれが普通でした。言葉の通じないドイツ人と同棲しているサラは、誰とでも寝るホーア(娼婦)として名が通っていましたが、同じ日本人ということで、ジョルジは仲よくなりますが、この星にいなければ彼女も普通の女性だったかもしれません。

 年代はおそらく仮想現代、上述のナンナアンナやイベンボのほか、カッタルカ、ズンマドカといったインド西部からネパール、ヒマラヤ地方にかけて聞いたことがあるような地名が登場します。この作品は、著者がインドを旅行した際の体験に触発されて書いたそうですから、これらの地名はその影響ですね。

 なんだかとても不思議な小説でした。ストーリー性よりもディア星の文化がひじょうに衝撃的で、それがじつにドラマチックです。町の個性、人々の個性がドラマなんですね。
 人間はなぜ生きるのか、その先に待ち受ける死とは。誰もが直面している存在に対する疑問あるいは畏れに対し、ディア教は、それを問うてはいけないと教えます。ディアの人々はあるがままに生き、その最後には至福のゴールを祈願して薪代を握りしめ、そっと死んでゆきます。薪代は火葬のための費用ですが、足りなければ充分に焼かれず、無一文ならそのまま川に流されます。
 虫になれ、自然物になれ、そう教えられているような気がします。迷いや苦悩に対する絶対的な救いですね。でもなかなかそうはなれない。救いは近いようで遠いです。この教えを体感するには、実際にディア星に行ってみないと解らないですかね。

 さて、ディア星の狂気にも似た異文化に触れた大学生ジョルジは、その後どうなるのでしょう。穣治として地球に帰り元の暮らしに戻るのでしょうか。彼を苦しめた恐ろしい悪夢からの解放は実現するのでしょうか。その顛末は実際に本著を手に取ってお確かめください。筆者としては、ディア星の茶葉を常用していた彼の健康が心配です。
 ディア星には、筆者もいつか行ってみたくもあり、その狂気にどっぷり浸かって抜けられなくなってしまうのではという恐れもあり、といったところです。文明の重圧に圧しつぶされそうな現代社会を生きる我々にとっては、ディア体験はなかなか魅力的にも見えますし、本著を読むだけでも毒されそうな衝撃にも思えます。
 Amazon の作品紹介の中で、著者は"あまりおもしろくない"と述べておられますが、あたしゃディア体験が忘れがたく2度読んでしまいましたよ。2度目は1度目よりもさらにおもしろかったです。多くの人たちにディア体験を経験してもらいたいです。そのためにも"おもしろくない"との内容紹介は削除してほしいです。

2015年、Amazon Kindle 電子出版
著者:海河童

コメント
ディア星の茶葉を常用していた海河童です(笑)

過分なお褒めの言葉をいただき、秀樹、感激です!(古いギャグでスミマセン)

ご紹介いただいた本は、ディア星から帰星した直後の錯乱状態で殴り書きをしたメモを33年後に書き直したのですが、そもそも、狂人が書いたような文章だったので、結局、何が言いたいのか最後まで分からない話になってしまいました。

事実と妄想が錯綜をしていたり、時系列もぐちゃぐちゃに入り乱れていたりと、大変読み難い文章を最後まで(それどころか、2回も)読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。
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