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本屋さんのダイアナ【小説】

2017/01/01


 ダイアナは、自分の名前が嫌いでした。大穴と書いてダイアナ、競馬好きの父がレースで大穴当てるようなラッキーがあるようにと娘に付けた名です。その父とは生まれる前に生き別れ、ダイアナはキャバ嬢のティアラに女手ひとつで育てられました。けばけばしい身なりにキラキラ趣味のティアラ(キャバクラの源氏名)は、娘の髪も幼い頃から金髪に染め、まぶしいくらいデコったランドセルをあてがっていました。
 ダイアナは派手な身なりと鋭い目つきで、周りの子供たちから敬遠されがちでしたが、その実彼女はひじょうに繊細で読書好きの少女でした。彼女はひとりで図書館に入りびたり読書に耽る日々を送っていました。
 そんな彼女を憧れを持って見ている少女がいました。彩子は恵まれた家庭で何不自由なく育てられ、しっかり勉強して中学からは名門女子校に進学する予定でした。金色に輝く髪、童話のお姫様のようにキラキラした持ち物、彩子にとってダイアナは大好きな本の中のヒロインでした。
 2人は同じ学校で出会い、たちまち親友同士になりました。ダイアナにとっても彩子は非の打ちどころのない憧れのお嬢さま、まさに理想の人でした。
 2人には共通の愛読書がありました。はっとりけいいち著「秘密の森のダイアナ」。困難に立ち向かい自らの呪いを振り切って自立して行くダイアナの物語は、人生のお手本でした。そしてあろうことか、彩子の父は、出版社で編集の仕事をしており、はっとりけいいちの担当だったのです。さらに、ティアラとも知らぬ仲ではなかったようなのです。ティアラが実は、彩子が志望する女子校を中退しており、作家や編集者が集うバーで働いていたこともある。がさつで派手好きな母親の意外な過去が徐々に明らかにされてゆきます。
 家計が苦しいことは承知で、ダイアナは彩子と同じ中学校に進学したいとティアラに相談しますが、あんな窮屈なところお前には向いてないよと一笑に付されてしまいます。
 それから彩子とダイアナはちょっとしたすれちがいで仲たがいしてしまい、2人は別々の道を進み始めます。
 ダイアナは、15歳になったら呪わしい名前を改名しようと思っていたのですが、けっきょくそのまま高校を出てアルバイトながら書店勤めを果たし、彩子は大学に進学してからは生活が乱れ飲み会三昧のサークルにどっぷり浸かってしまいます。

 現代の「赤毛のアン」とも評される童話タッチの現代劇ですが、冒頭からとにかく面白いです。著者の卓越した筆致にグイグイ惹き込まれます。一見何も考えていないティアラがかつては清楚なお嬢さんで、ダイアナや彩子の愛読書の著者はっとりけいいちとも無縁でなかったり、彩子の父がその編集担当だったり。競馬の大穴にちなんでダイアナという命名にもじつは思わぬ真相があったり。お話しはダイアナと彩子の視点で交互に進み、それぞれの立場から見た人間像の描写はじつにおもしろいですね。
 お互いに大好きだったはずなのに、ちょっとした誤解から傷がどんどん広がって、2人の少女時代は終焉を迎えます。そして大人になって再会するまで、2人別々の物語が展開するわけですが、希望に向かって地味に積み重ねて行くダイアナと、目的を見失って自暴自棄になってしまう大学時代の彩子が対照的です。
 2人はそのまま別々の人生を歩んでゆくだけなのでしょうか。あれほど理解し合った少女時代は、たかが子供のかりそめの友情にすぎなかったのでしょうか。交互にそれぞれの視点で描かれるエピソードは、読み手にはダイアナと彩子双方の心情が理解できるわけですが、2人は一方的な思いから、通じ合っていたはずの心がすれちがってゆきます。2人とも自分やその家庭を卑下しがちで、相手とその家族に羨望を覚えるあたり、皆さんにも覚えはありませんか?
 人間関係の難しさとおもしろさ、複雑に錯綜し絶妙につながってゆく人間関係の妙をぞんぶんに満喫してください。

2014年4月発行、新潮社。
著者:柚木麻子。
書下ろし。

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