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恋の罪【映画】

2016/12/14


 ラブホテル街の廃墟で、猟奇的な惨殺死体が発見されます。下半身はマネキンの上半身を付けられて横たわり、上半身にはマネキンの頭と足を付けられセーラー服を着せられて座っています。ホテルで男との情事に耽っていた女刑事和子は、知らせを受けて慌てて服を着て現場に急行します。和子は、最近行方不明になっている女性のリストから首なしバラバラ死体の身元を探り始めます。
 和子は敏腕刑事として仕事に打ち込むうえ、旦那と幼い娘がいる温かい家庭で母親の役目も果たしていましたが、夫の知人との不倫から逃れられないでいました。
 事件の少し前、有名な小説家に嫁ぎ玉の輿に乗った いずみは、優雅な大邸宅で清楚な妻を演じていましたが、仕事場を別のところに持ち早朝から夜まで帰らない夫のいない時間を持て余していました。彼女は外で軽い仕事をすることを夫に持ちかけ、彼もそれを承諾します。スーパーの販売員の職を得た いずみは、ある時ひとりの女にモデルの仕事を持ちかけられ、好奇心からそれに応じますが、グラビア撮影は口実で途中からアダルトビデオの撮影になってしまいます。しかし いずみはその後も依頼があればその仕事を続けるのでした。
 夫のいない日中、次第に大胆になってゆく いずみはひとりの青年に誘われてラブホテル街にやって来ますが、そこで売春をやっている美津子と出会います。美津子は いずみを廃墟に誘い、そこで自分の淫らな仕事を見せつけます。美津子の昼間の顔は大学教授で、教壇で文学を朗読する彼は夜の顔とはまったく別人でした。いずみは美津子の昼間の顔を目の当たりにし、どんどん彼女に惹かれて行きます。そして彼女と共に狂気の世界に落ちて行くのでした。

 言葉なんかおぼえるんじゃなかった 日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる。美津子が教壇で朗読する詩の一節です。美津子は言います、あなたの言葉には肉体がない、言葉はすべて肉体を持つものだ。わたしたちはどこへ行くの、いずみの問いに美津子は、城だと答えます。しかし、みんな城のまわりをぐるぐる回っているだけで城にはたどり着けないとも言います。そしてそれは、今は亡き父が少女の頃の美津子に語ったフレーズでもありました。城とは、ドイツの文豪フランツ・カフカの未完の小説「城」のことです。
 まるで夢を見ているような異常な色彩の世界の中を、欲望を求める2人はさまよい、笑いさんざめき、絶叫します。エリート大学教授とベストセラー作家の妻が、抑えきれぬ欲望を求めて奈落の底に身を落してゆく背景には、上流家庭の暮らしの中にぽっかり空いた空白という耐えがたい空虚がありました。美津子は同じく大学教授の父に感化され父を激しく思慕し、父を追って同じ道に進みますが、その父はもういません。いずみは上品で無垢で優しい夫を愛していますが、夫はいつも家におらず、彼女は大きな屋敷の留守を独りで守っている家政婦のような暮らしをしています。

 この映画は、1997年に実際にあった東電OL殺人事件を題材にしているそうです。被害者のOLは東京電力の幹部社員というエリートですが、勤務が退けると夜の街で路上売春をやっていました。人々がうらやむキャリアウーマンが売春婦に身を落した背景に何があったのでしょうね。この映画を観るとその本質みたいなものが見えてくるような気がします。

 この映画の主役は、神楽坂恵が演じる いずみにしか筆者には見えないのですが、同作品に関するいずれの記述でも水野美紀演じる女刑事和子となっています。登場シーンの多くない和子ですが、いずみや美津子が落ちて行った奈落と同じような闇を抱えています。敏腕刑事と恵まれた家庭の妻という申し分のない暮らし向きですが、その美貌から夫の知人の男に目を付けられ、1度の過ちから抜けられなくなっています。
 ラブホテル街の猟奇殺人を捜査するうちに次第に被害者の素顔が浮かび上がって来るわけですが、和子は被害者の境遇と自分を重ねあわせていたのでしょうか。むかし読んだFBIのプロファイリングの本の冒頭に、怪物を追うものは自ら怪物になってはいけないというフレーズがありました。正義と規律と厳格な命令系統に生きる捜査官が、連続猟奇殺人を操作するうちに、犯人の異常心理に魅せられてゆくことへの警告をうたったものです。もしかすると和子も今の暮らしを守りたいと願う反面、いずみや美津子がたどった解放への羨望を思い抱いたかもしれませんね。
 お話しの中に出てくる、ゴミ収集車を追いかけて見知らぬ場所へ迷い込む主婦の話し、あれは後ほど和子にとって笑えない話しになるので覚えておいてください。

 本作は、園子温監督が手がける「家賃3部作」の第2弾に当たります。第1弾は本作の1年前に公開された「冷たい熱帯魚」という本作をしのぐ衝撃作です。「家賃3部作」の"家賃"の意味は謎です。それと第3弾も謎です。「冷たい熱帯魚」も実在の殺人事件を題材にしたもので、神楽坂恵が熱帯魚店の後妻を体当たりで演じています。
 「恋の罪」というタイトルですが、なんかピンと来ないんですよね。哀しいラブストーリーみたいで。内容はもっとドロドロで強烈です。エロくてグロくて残忍です。狂気に満ちています。もっと、こう……なんて言うか「奈落の城」くらいのタイトルが良かったんじゃないか、そんな気がします。残酷描写が苦手な人にはお勧めできませんが「冷たい熱帯魚」に比べたらずいぶんおとなしいです。第2弾が第1弾よりも表現のうえでパワーダウンしているようですが、心理描写の恐ろしさが素晴らしいです。清楚な いずみがどんどん変容した行くさま、大学教授の美津子と夜の彼女とのギャップに背筋が寒くなります。ここまでして彼女たちが求めたもの、そして和子をとらえて放さないものっていったい何なのだ、人間の中にひそむ魔性を徹底的にほじくり返す園子温監督の怪物っぷりに震撼してください。

2011年、144分。R18+
監督、脚本:園子温 。
出演:神楽坂恵、水野美紀、冨樫真、児嶋一哉、二階堂智、小林竜樹、五辻真吾、深水元基、町田マリー、大方斐紗子、津田寛治、岩松了ほか。

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