kepopput.jpg

ハドソン川の奇跡【映画】

2016/09/30


 2009年1月、バードストライクによりメインエンジンを失ったエアバスが真冬のハドソン川に緊急着水するという実話を映画化したものです。この事件は当時のニューヨーク州知事により「ハドソン川の奇跡」と称されましたが、映画の原題はチェズレイ・サレンバーガー機長の愛称である"サリー"になっています。
 離陸して間もなく、機はガンの群れに遭遇し多数の鳥を巻き込んで左右両エンジンにダメージを受け、充分な高度が維持できず、近くの飛行場への不時着を断念、ハドソン川に着水します。
 乗員乗客全員が無事に救出され、サレンバーガー機長は一躍ヒーローになりますが、事故調査委員会は左エンジンがかろうじて生きており、管制塔の指示に従っていれば飛行場への安全な不時着が可能であったとし、無謀な着水を試み乗客乗員を危険にさらした機長の判断ミスを断罪する構えでした。シミュレーションシステムによる事故の再現が熟練のパイロットたちによって場所と人員を変えて2度行なわれましたが、その結果も飛行場への帰還が可能であったことを示していました。
 しかしながらこれらのシミュレーションは、バードストライクのあと直ちに緊急不時着を実践した際のデータであり、管制塔とのやり取りやエンジンの再始動を試みる時間は含まれていませんでした。
 大勢の関係者が集まった公聴会では、機長と副操縦士のジェフリー・B・スカイルズは、シミュレーションをもとに判断ミスを指摘され、適切な処置を行なわなかったとして告発されるところでした。調査機関の間、2人はホテルに缶詰めにされ、会社から脅されることになります。

 映画では、機長も副操縦士も致命的なアクシデントに際して極めて冷静で、エンジンの再始動を試み、非常時マニュアルをチェックし、空港への帰還には高度が充分ではなくそれを試みればニューヨークのビル群に墜落すると判断し、管制塔のアドバイスを拒否してハドソン川に着水を試みることを決定しています。客室乗務員も機長の「ショックに備えてください」という1度きりのアナウンスだけで異常時に対応するための万全の行動を執っています。 異常発生から3分後には機は滑らかな着水に成功し、機体が水没する1時間後までには乗客乗員155人全員の避難を完了しています。ハドソン川を航行していたフェリーも迅速に救出に向かっています。これらの人々の的確な現場の判断がなかったら、乗客の命を救うことはできなかったでしょう。
 そしてこうした現場の判断というものを、会社の上層部の人間はおもしろく思わないようですね。世間がヒーローとして賞賛している機長は、会社の誇りでもあるはずです。それを重大な過失を犯したとして告発しようとするわけです。機長および副操縦士の過失が立証されれば、彼らはヒーローどころか重罪人として処罰されることになります。
 筆者も交通従業員の端くれですが、会社というものは現場というものをひじょうに軽視しており、指示系統に従わず独自の判断を行なうことを極端に嫌います。異常時の際、その実態を把握しているのは現場職員ですが、現場が見えていない指令所からの指示に先んじて現場が行動することを快く思いません。職員の資質向上を公言しながら、現場職員をまったく信用していない、それが会社というもののようですね。
 鉄道事故で旅客が長時間車内に閉じ込められたあげく線路を歩いて避難なんて事態がよくありますが、現場の判断が優先されれば、長時間の缶詰めは回避できるでしょう。上層部ですったもんだ議論したあげく、けっきょくは旅客に線路を歩かせることになるわけです。筆者も乗務員時代にレールが折れて列車が立ち往生したことがあり、現場の判断で対向の列車に旅客を収容し、長時間缶詰めを回避したのですが、上層部はそれがかなり気にくわなかったようで、後で上司からくだらない嫌味をたっぷり聞かされました。あの時は車掌や対向列車の乗務員の判断と行動が的確で迅速で、人間はそういう状況に立たされると頭が冴えて思わぬパワーを発揮できるものなんだなぁと感心したものです。
 鉄道の現場では飛び込み自殺のバラバラ死体を迅速に片付け、あっという間に列車の運転を再開するという状況に遭遇することがありますが、職場では自分には死体を触るなんて無理、なんて誰しも言いますが、自己に遭遇して処置を果たせなかった乗務員を知りません。
 この映画で、機長をはじめ乗務員やフェリーのクルーが素晴らしい断行力を発揮し、迅速に旅客を救ったのは、誇張した表現ではないと思います。それが現場の資質というものです。そしてこれは旅客や社会が求めている資質です。会社にとってもヒーローの存在は有益だと思うのですが。

 この映画に登場する事故調査委員会と、会社の体質に関することでは、いささか見当違いなことを述べているのかも知れませんが、大きな組織において会社と現場との体質のギャップは問題が小さくないです。組織は現場の職員の見ているもの、判断したことを尊重し、その行動を全力でサポートするべきものだと思います。
 サリー機長は、APU(補助動力装置)の起動を直ちに行なっており、このことは着水時の機体を安定させるのに大きく貢献したと言われています。この行動は当時の非常時マニュアルには記載がなかったそうです。安全は文化だとよく言われますが、それは現場の職員が日々の作業の中で積み上げて行くものであるということを示しています。実際に非常時にはマニュアル通りのことは起こりませんし、マニュアルを検索している余裕もありません。マニュアルや上からの指示よりも信頼すべきは現場の判断です。

 この映画を撮るにあたってクリント・イーストウッド監督は、エアバスを1機購入し、ハドソン川での救助活動には実際に救助に当たった船舶とクルーをそのまま本人役で起用し、事故のリアルな再現にこだわったそうです。脱出シューターや主翼の上で救助を待つ乗客の映像は、さながらニュース映像を見ているようでした。
 現在、旅客機はひじょうに安全な乗り物として高い信頼を得ていますが、鳥の群れとの遭遇というありがちな出来事で危険にさらされてしまうことを思うと、不安を感じます。しかもその件数は少なくなく、航続が困難になって空港に引き返す事例もあるようです。そして対策はなかなか容易ではないみたいですね。電車でもバードストライクはかなりの頻度で起きていますが、その大半が運行に支障がなく、最悪でもフロントガラスが破損して車両取替を行なうていどなので、ほとんど問題になっていません。

 人々は、こうした実話作品をどのように観るのでしょう。非日常的な出来事への好奇心からでしょうか、災害に遭遇した人々の人間模様への興味からでしょうか。筆者が思うに、単純にヒーローものとして楽しむのが一番です。危険に敢然と立ち向かったサリー機長をはじめ多くのスタッフたち、そして事故を巡る社会情勢、それを自分がヒーローになったつもりで感情移入して楽しむのが一番です。
 クリント・イーストウッド監督は、前作「アメリカン・スナイパー」でも実在の人物を描き、戦場の生々しさと兵士を取り巻く様々な社会情勢を描いていますが、本作はそれに負けないくらい、あるいはそれをしのぐほどに迫力のある映画でした。

原題:SULLY。
2016年アメリカ、96分。
監督:クリント・イーストウッド。
脚本:ドッド・コマーニキ。
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、アンナ・ガン、オータム・リーサー、ホルト・マッキャラニー、マイク・オマリー、ジェイミー・シャリダン、ジェリー・フェレーラ、モリー・ヘイガン、ヴァレリー・マハフェイほか。

コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

目 次
能書き

思うこと全般

けぽっぷ体験

アイドルのこと

韓流映画

番外編


索引 韓流映画&番外編





  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

サイト内検索

NEW ENTRIES










recent comment

links

プロフィール

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM