kepopput.jpg

アスファルト【映画】

2016/09/21


 とある田舎町の寂れた団地。故障続きのエレベーターを住人の負担で更新するという自治会の決定に、ただひとり反対した中年男は、自宅が2階であることからエレベーターを使う必要がありません。エレベーターを使用しないという条件で費用の負担を免れたものの、自宅で健康器具を使っていて怪我をしてしまい、一時的に車椅子生活を強いられることになります。男は深夜に人目を忍んでエレベーターを使い、食料の調達に出かけますが、スーパーはすでに営業終了、仕方なく近くの病院に忍び込んで自販機で菓子やパンを購入します。そしてそこで夜勤の看護婦と出会い、自分は写真家だと偽って深夜の病院に通い始めます。
 その同じ団地に住むアフリカからの移民の女性は、服役中の息子の帰りを待ちわび、孤独な暮らしを送っています。
 同じ団地に住む少年は、同じ階に越してきた落ち目の中年女優と出会い、彼女の舞台のオーディションを応援すべく奮闘し始めます。彼の退屈な日々は、女優の演技のPRフィルムを作ることに忙殺されるようになります。
 写真家と偽った男は、母親の古ぼけたカメラをひっぱり出し、窓の外やテレビに映る外国の風景、有名人などを撮影し始めます。そうして窓の外を眺めていると空に見なれるものが飛んでいるのでした。
 飛行物体は徐々に大きくなり、やがて団地の屋上に着陸します。中から出てきたのはNASAの宇宙飛行士でした。アメリカ圏内に着水し回収されるはずだった彼は、なぜかフランスの田舎に不時着したのでした。状況が把握できないまま、彼はひとりの女性に助けられ彼女の自宅に身を寄せます。
 電話を借りてNASAに連絡を取った宇宙飛行士は、彼を密かに回収するのに日にちがかかることを知らされます。服役中の息子と同じ年恰好の言葉の通じない宇宙飛行士の滞在を、女性は大いに歓迎し、息子の部屋を貸し息子の話しをし、故郷アフリカの伝統料理クスクスをふるまいます。

 場末のうらぶれた団地というモノトーンの風景と、淡々と流れる静かな群像劇、観客によっては退屈して睡魔に憑かれてしまうような内容かもしれません。でも、そうした何気ないやり取りの中に小さな笑いが潜んでいて、気づけば顔がほころんでいます。大阪では公開時期が重なった「イレブン・ミニッツ(2015ポーランド/アイルランド)」と対を成すような(筆者にはそう思えた)作品で、イレブン・ミニッツの方が大都会を舞台にスリリングな人間模様を描いた群像劇であるのに対して、アスファルトは静かで寂しい雰囲気に包まれています。イレブン・ミニッツの方が登場人物も多くストーリーも技巧的なのですが、筆者はこちらの方がむしろ退屈でした。アスファルトのローテンポで起伏の少ない物語の方が、ずっと惹き込まれました。
 男女6人のありふれた日常の淡々とした会話の中に潜む小さな笑いと感動が、ひじょうに味わい深く、心惹かれて離れられませんでした。
 人目を忍んでエレベーターに乗る男、どうといったことのないシーンですが、他の住人に見つからないかハラハラしました。落ちぶれた女優の情緒不安定な言動に目が離せませんでした。言葉の通じ合わない宇宙飛行士とアフリカ移民の中年女性、まるで過去と未来の人間同士の遭遇に息を飲みました。宇宙飛行士にとってはそれこそ見知らぬ惑星で異星人に出会ったような体験だったことでしょう。
 そしてやがて訪れる別れ。男女6人のわずか数日間の小さな小さな物語の結末をしっかりと見届けてください。知らず胸がいっぱいになり気づけば涙がほほを伝っていることでしょう。

 みんなとても不器用で、互いの思いを上手く伝えられません。会話はともすればふてぶてしくなり、いやいや仕方なく付き合っているかのように見えます。少年と女優のケースが特にそうですね。それなのに気づけばまた互いの部屋を訪ねていたりします。車椅子の男に対する看護婦の態度も冷淡なのですが、けっきょく彼女は彼の来訪を待っています。唯一素直を気持ちをぶつけ合おうとする宇宙飛行士と移民女性は、残念ながら言葉が通じません。
 そして彼らが時おり耳にする奇妙な音。筆者には古い怪獣映画の宇宙怪獣の慟哭のように聞こえました。登場人物たちがみんな耳にしながら、別段気にも留めない、遠くから聞こえてくる音の正体は何なのでしょう?

 出会いはさりげなく、さしたる事件も起こらないのですが、出会いの前と後とでは彼らの中で何かが大きく変わった、そんな気がします。人が経験を重ねるってこういうことなんだと、当たり前のようなことに今さらながら気づかせてくれる、そんな映画でした。そしてこの作品との出会いの前と後とでは、筆者の心の中でも何かが変わった、そんな気がします。

原題:ASPHALTE。
2015年フランス、100分。日本公開は翌年。
監督、脚本:サミュエル・ベンシェトリ。
脚本:ガボール・ラソフ。
出演:イザベル・ユペール、ギュスタブ・ケルヴァン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、タサディット・マンディ、ジュール・ベンシェトリ、マイケル・ピット、ミカエル・グラーリング 、ラルーシ・ディディ、アブデルマドジッド・バルジャ、ティエリー・ヒメネスほか。

コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

目 次
能書き

思うこと全般

けぽっぷ体験

アイドルのこと

韓流映画

番外編


索引 韓流映画&番外編





  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

サイト内検索

NEW ENTRIES










recent comment

links

プロフィール

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM