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ガニメデの優しい巨人【小説】

2016/08/24


 人類が月や木星に有人飛行を果たした今より少し未来のお話し。月面に5万年前の人類ルナリアンの遺骸を発見し、木星の衛星ガニメデにさらに古い2500万年前の人類の痕跡を見つけた研究チームは、今度はガニメデに接近中の宇宙船に遭遇、そこには2500万年前の古代人が生きた姿で搭乗しているのでした。
 研究チームがルナリアンとガニメアンの遺骸を発見したのが前作「星を継ぐもの」のお話し、本作はその続編で、生きたガニメアンとの出会いが描かれています。
 月で発見されたことからルナリアン(ルナはアラビア語で月のこと)と名づけられた5万年前の死骸は、現在の地球人とまったく同じ人間でしたが、それよりもずっとむかし2500万年前にガニメデで没したガニメアンは、身長2.5mほどの巨人で、手の指は6本で形態的にもかなり人類とはちがっています。彼らの故郷は火星と木星の間の惑星軌道を巡っていたミネルバで、その星は今は破壊されて小惑星帯の岩石群と化しているのですが、2500万年もの長きの間、どうやって生き延び現代に蘇ったのかというお話しについては、本編を読んで下さい。

 前回お話しの中心になった5万年前の人類ルナリアンもまたミネルバ出身でしたが、彼らはひじょうに好戦的で、戦争によって母星を破壊して滅び去っています。ところが今回生きた姿で地球人の前に現れたガニメアンたちはきわめて温厚で、争うことを知らず、帰ってみれば自分たちの母星が破壊されなくなっていることに大きなショックを受けます。
 彼らガニメアンがなぜ争いを知らずひじょうに温厚なのかということが、本編の学術的なテーマになっており、たいへん興味深い点です。ルナリアンと同属同種の地球人の歴史は争いの歴史で、それは過酷な生存競争の中で進化してきたことに起因しているとしていますが、ではガニメアンの進化は生存競争を経験しなかったのでしょうか。ガニメアンが栄えていた頃のミネルバ、そしてガニメアンに至るまでのミネルバにおける生物進化の歴史では、捕食者すなわち肉食動物は存在せず、古いタイプの捕食者は深海に隔離され、その後の進化では草食動物しか進化しなかったのだそうです。
 それはミネルバの動物たちの2重構造の循環器のせいで、わずかな怪我でもして別系統になっている循環器系の血液が混ざると、体中に有毒物質が流出することになり死の危険にさらされるのです。ゆえにミネルバの動物たちはわずかの怪我も負わないように厚い皮膚を持ち、怪我が付き物の狩猟生活を営むようなものは生きて行けなかったのでした。2重構造の循環器が発達したのは自然界で生きているうちに遭遇する毒素を隔離するためで、毒素を抱えた方の循環器は言わば爆弾のようなものでした。ガニメアンたちは遺伝子技術によってその爆弾を自らの体から除去することに成功しますが、代わりにミネルバに蓄積されつつある二酸化炭素に対する耐性を失い、存続の危機に瀕することになってしまいました。
 ミネルバの動物の進化では、より強く競合相手を打ち負かすものが生き残るのではなく、高い自衛手段を有し、争わず身を守ることに長けたものが生き残り繁栄し、そうした中から知的人類が進化してきました。ゆえにガニメアンは、心優しいベジタリアンとして栄え、高度な科学技術を獲得し、恒星間旅行をも実現するに至りました。
 ガニメアンよりもはるかに新しく太陽系に姿を現したルナリアンそしてそれと同種の地球人は、肉食を含む雑食で、好戦的な性格を有し貪欲で、それゆえにひじょうに短い期間で急速に文明を発達させた、とガニメアンの科学者は分析しています。

 自らが利益を得ることに貪欲で、他人と競ったり他国と争うことが常である地球人からすると、無欲なガニメアンがどうして科学技術を発展させ栄えることができたのか不思議に思えるのですが、ガニメアンからすると好戦的な人種が国際社会を発展させ、共同事業である宇宙開発を実現するに至ったことが不思議なのでした。そこまで進歩するまでどうやって滅亡を回避してきたのか。地球人の前に繁栄したルナリアンは自滅しています。
 ガニメアンの精神構造を支えるのは、人の役に立ちたい、他人から感謝され評価されたいという欲求なのだといいます。それが人類の社会生活を支え繁栄をもたらしたと。ガニメアンからすれば、人から悪く思われたり、人を不幸にしてでも自らの利益を拡大したいという欲求を持つことは精神に異常を来してるのであり、そうした性格を持つ者は異常者として治療の対象になります。社会生活に争いや危険を持ち込むことは、社会秩序の維持に対する危機であり排除しなければなりません。地球人文明では、ガニメアンたちが異常者と定義している精神構造の者が中心になって社会を運営していることになります。

 現在の私たちの文明社会においても、人類がいかに争いを回避し、エネルギー資源や環境破壊の問題を解決し、自滅を回避して発展することができるかというのは大きなテーマでありますが、原作者ジェイムズ・P・ホーガンもそのテーマに則ってこのSF作品を書き著したのではないでしょうか。
 地球人も古い歴史においては君主制が大きく幅を効かせ、他国を滅ぼして奴隷にするような国策が常識的でしたが、君主制は次第に民主制に移行し、庶民の地位が向上して行きました。私たちの日常生活を見ましても、人に危害を加えたり殺害したりする行為は一級の犯罪と定義され、大多数の人たちが社会秩序を守ること、協調性を持ち他人とうまくやってゆくことを心がけています。マナーやルールを守ることに大多数の人が積極的です。どんな悪どい手段を使ってでも富を独占したいと豪語するような人はほとんど見かけません。
 ガニメアンに言わせれば、富を独占し、それを維持するための格差社会を善しとし、飢餓や戦争を歓迎するような政治家や資本家は、治療を要する異常者ということになります。筆者も同感です。
 資本主義のイデオロギーでは、格差社会を是認し、闘争が社会の原動力としているようなところがありますが、やったもん勝ち、儲けたもん勝ちが正義として通り、負け組の人間は野心と努力が足りないというなら、道徳など学ぶ必要がありません。学校で教える道徳あるいは理性が人間の正しい精神行動であるとするならば、破壊や社会秩序の崩壊につながるような並外れた欲求を抱くことや、格差社会を是認し、争いを奨励することはやはり異常と言うしかありません。
 人間は愚かだとか欲深いとか、そのために自滅するとか当然のことのように語る人も大勢いますが、君主制から民主制への移行、庶民の地位向上は、人類の精神文明の進歩であって、欲望の欠如や怠惰の結果ではありません。私たち地球人にもガニメアンの精神すなわち人の役に立ちたいという欲求はありますし、他人から感謝されたり評価されることは大きな喜びです。ベジタリアンならずともそれは変わりありません。
 ガニメアンのような宇宙開発時代を、明るい未来を望むのなら、格差社会や争いは縮小して行かねばなりません。宇宙開発時代なんて遠い未来のことのように思えるかもしれませんが、国際社会の調和がもっと進めば、国家間の軋轢や軍事費に割かれる経費の問題が解消され、遅れたり見合わせられたりしている宇宙開発事業は大いに促進されます。それよりも何よりも、殺伐とした未来、飢餓と病気、戦乱が蔓延する未来なんて誰も望まないでしょう。戦争特需でボロ儲けしたいと考えている人もいるのでしょうが、儲けたところで経済が破たんすれば大好きなお金も紙切れになっちまいます。
 ガニメアンに笑われないように、私たちも頑張らねばなりません。ベジタリアンにはなりたくないけど。

 ひじょうに重いテーマを擁したハードSFですが、お話しの後半ではガニメアンご一行がいよいよ地球に降り立ち、手厚い歓迎を受けます。母星を失った旅人たちは、地球を新天地として新たな出発を実現することができるのでしょうか。地球人はガニメアンから優れた科学技術と新たなイデオロギーを譲り受け、平和社会を実現することができるのでしょうか。それとも物語は思いもよらぬ方向に進んでゆくのでしょうか。ぜひ本編をお読みください。
 ちなみに、ガニメアンは地球人本意の表現で、本来彼らはミネルバンですよね。そして物語は、3部作の最終編「巨人たちの星」に続きます。

原題:The Gentle Giants of Ganymede
1978年イギリス。
ジェイムズ・P・ホーガン 著。

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