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星を継ぐもの【小説】

2016/07/27


 ハードSFの古典的名作ですが、若い頃にびっしりとページを埋める文字と、難解な言葉づかい、本の厚みにめげて敬遠してしまった覚えがあります。それ以前に高校生の頃にはユーゴーの「レ・ミゼラブル」の旧版全5巻とか、モームの「人間の絆」とか嬉々として呼んでたんですけどね。でもン十年ぶりにひも解いてみると、あの頃よりはいくらか学術的知識も向上していて、たいへん面白く読めました。ただ、英米の単位表記には今でも辟易させられます。マイルとかフィートとかポンドとか、意味わからんし。ガニメデの巨人が身長〇フィートと言われても、5メートルくらいあるのかゴジラくらいなのか、まったく想像がつきません。和訳するなら単位もメートル法に直しておいてほしいものです。
 近未来のお話しです。月面に前線基地を築き、木星探査に有人宇宙船を送り込むほどの技術文明を人類は確立しています。アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」では、今から15年前に人類はすでに木星への有人飛行を実現していますが、現実にはそうはならなかったですね。
「2001年宇宙の旅」では宇宙ステーションまで旅客機が飛び、人工知能が宇宙飛行士と会話していますが、カメラはスマホよりも大型だったりして笑えるのですが、本作でも科学者たちがみんなヘビースモーカーで話し口調がプライド高く横柄だったりと、未来予測が妙に前時代的なところが笑えます。
 近未来SFでは、高度な科学技術によって壮麗な未来都市が築かれているのに、政治は相変わらず中央集権で、それに反駁するアウトローがヒーローだったりしますが、筆者は、近代あるいは現代のイデオロギーのまま人類に未来があるなんて想像が出来ません。経済競争と格差で熾烈な争いを産み続ける社会に未来なんであり得ないでしょう。人類の未来の可能性は、人々の文化が経済をリードする健全な社会にこそあります。本作では未来の政治的背景については描かれていませんが、企業や国の利害関係的要素がチラッと伺える場面があり、秀作SFにおいても経済的自由競争は存在するようでした。

 さて、本編のお話しですが、月面で見慣れぬスーツを着た白骨死体が発見され、それが5万年前のものでしかも現生人類と同じ種類の人間だということで、その謎解きのために科学者たちが奮戦するというものです。5万年前と言えば地球は氷河期のただ中で、人類はまだ旧石器人でした。そんな時代に我々と同じ種類の人間が宇宙服に身を包んで月面に降り立ち、そこで命を落としたというのです。
 これはある意味宇宙人の発見よりも大きな謎です。チャーリーと名づけられたその死体は、いったいどこからどうやって5万年前の月にやって来たのでしょう。読者の皆さんはこの事態をどのように推察します? 5万年前に高度な文明を持った人間が存在し、月面探査を行なっていたのでしょうか。その文明は何らかの理由で滅亡し、その痕跡すらも残さず、残されたわずかな地球人の文明は石器時代にまで後退し、ここ1万年以内の間に再び新たな文明が進歩した。あるいは未来から5万年前の月にタイムスリップした未来人が事故で命を落とした。5万年前に星間宇宙旅行が可能な科学技術を持った人間が太陽系を訪れ、彼らと同じ種類の人間を月と地球に残した……。
 チャーリーとその所持品の解析が進み、彼の日記が解読されると、彼は5万年前のミネルバ人だということが判ります。ミネルバは5万年前に崩壊して粉々になり、現在は火星と木星の間の惑星軌道を巡る小惑星帯になっています。母星を追われたミネルバ人たちは地球に移住することになり、それが現在の地球人になったのでしょうか。だとしたらミネルバの文明が失われてしまったのはなぜなのでしょう。その謎については本編をお読みください。

 それからあまり時を経ずして、今度は木星の衛星ガニメデにて2500万年前に遭難した宇宙船が見つかります。その乗員もやはり物言わぬ死体ですが、身長が8フィート(2.4384m)ほどもある巨人で、船内には彼らの他に2500万年前に地球に住んでいた動植物が多数収容されていました。
 5万年前に存在した生物学的には現生人類と同じ文明人、その驚異をさらに上回る謎の出現です。しかも今度は人類がその化石さえも発見したことがない身の丈2メートル半の巨人で、新生代の地球の生物を多数連れていた。相次ぐ2件の古代文明人の発見で、地球人の進化に関する学説が根底から揺るがされることになります。
 日本アニメお得意のSFファンタジーであれば、ガニメアンとの交信が実現し、夢とロマンに満ちたお話しが拡がるところですが、ハードSFというジャンルは、極めて学術的な論拠に基づいたお話しになり、登場する科学者たちの口からは専門的な学術表現がバンバンあふれ出します。しかしながら、生物学や進化学に造詣がなくても、この作品は充分におもしろいです。今はもう存在しない惑星ミネルバに住んでいたチャーリーがなぜ地球の衛星すなわち月で命を落とすことになったのか、母星から月までごく短時間で移動したとする彼の日記の記述に秘められた驚くべき謎、それが解明された時には感動さえ覚えました。
 ただ、5万年前のミネルバ人と現代の地球人がまったく同一というのには、ちょっと釈然としないものがあります、多少なりとも進化について勉強した身としては。生物は世代交代のうちにしばしば変異型を生じるものですが、その形質は繰り返される交配によって希釈され失われてゆき、結果として種は延々と保存され続けます。しかしながら5万年の時を隔てた生物が種としてまったく同じでいられるかどうかは疑問です。数々の失われた変異型の形質は何らかの変化をDNA上にもたらすでしょうし。そしてミネルバ人と地球人のように異なる環境に隔絶された状態で5万年を経た場合、それでも両者がまったく同じ種でいられる可能性は少ないように思えます。異なる環境に隔離された個体群は独自の淘汰を受け、比較的急激に変化して行き、地域変異や亜種を生じがちです。そうした差異がミネルバ人と地球人との間にも生じたはずです。地球人同士でも肌や目や髪の色、骨格や顔の輪郭等にさまざまな違いが生じています。
 もっともチャーリーの肉体的遺品はほとんど骨格だけですから、彼の遺伝子からクローンを作成してみれば、地球人との形質的な違いが発現するかもしれませんが。

 ハードSFは、学術的な根拠に準じたお話しになっているだけに、SFファンタジーにはないリアルなおもしろさと感動があります。遠からぬ未来に我々が実際に遭遇しそうな事件に興奮させられます。難解な学術用語と、出版されてから約40年がゆえの表現の古さに戸惑うかも知れませんが、お話自体はそれほど複雑ではなく、比較的解りやすくなっています。誰でも楽しめる内容だと思います。
 そして物語は、1978年に出版された「ガニメデの優しい巨人」、1981年発表の「巨人たちの星」へと続きます。もちろん読みます。

原題:Inherit the Stars
1977年イギリス。
ジェイムズ・P・ホーガン 著。

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