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少女椿 その2【コミック】

2016/07/22


 先日観た映画「少女椿」の原作コミックです。この作品が刊行された1984年は、第二次世界大戦が終わってやがて40年になろうという時代ですが、終戦直後の"母子不幸もの"は今なお健在でした。その後1992年になって曽根富美子の「親なるもの 断崖」がやはり母子不幸ものの大作として出ていますが、昭和の時代が終わってなお、戦争の爪痕を描いた作品は、日本文化の1ジャンルとして根強く残っているわけですね。
 「少女椿」はその映画化により再燃しましたが、「親成るもの 断崖」もまた近年電子書籍として再版されて脚光を浴び、紙版も再版されました。
 しかしながら少女椿は、「親成るもの 断崖」を含め歴史小説等に見られる母子不幸ものとはかなり毛色がちがう作品で、一般的には悪趣味とされるアングラなジャンルに入ります。残酷描写や卑猥な表現を当たり前のように多用し、健全とはほど遠い描写で、一般読者を遠ざけるそんな比類の作品なんですね。
 知る人もあまりいないかもですが、いわゆるガロ系あるいは特殊漫画と呼ばれるジャンルにこの作品は身を置き、原作レベルでは大きなヒットは叶いませんでした。ガロ系とは青林堂が1964年から2002年まで敢行していた「月刊漫画ガロ」に掲載された主にエログロをモチーフにした作品とそれに類する漫画や小説のことで、ガロの作家たちがいささか自嘲的な意味合いでそれらの作品とくに漫画を特殊漫画と呼んでいました。
 筆者としては、楳図かずおもこのジャンルに入る作家だと思うのですが、彼は「少年サンデー」等のメジャー誌を媒体に執筆活動を続け、アニメ化や映画化の数も多数で、同じ毛色でもガロ系とは歩んできた道がちがいます。ガロ系の作家たちにしてみれば、アングラに徹しなかった楳図かずおは許しがたい反逆者であるでしょうし、それを採用した少年サンデーもまた異端児であり冒険者でした(そう思っているのは筆者だけか)。
 エログロあるいは不気味系の作品は、世間一般に悪趣味とか不健全とか酷評されていますが、しばしばメジャー作品にのし上がります。江戸川乱歩の怪奇小説などは名探偵明智小五郎を得て少年向け冒険小説にまで昇格しています。美麗な人でも心に醜い部分を内在しているように、著名な偉人が時として変態を嗜好するように、すべらかな肌の内側に臓器や骨を内包しているように、人間には暗い部分があって、それは常に我々につきまとっていて、ある時気づけばその虜になっていたりするものなのでしょう。
 ガロ系では、古屋兎丸の「自殺サークル」なんか素晴らしいですね。

 で、本編のお話しなのですが、ストーリーは前項でお話しした映画とほぼ同じです。清楚で無垢な少女みどりにとって、醜悪で不気味な怪人たちに囲まれたサーカス小屋暮らしはさながら地獄です。将来に夢も希望もない暮らしの中で、東京行きの列車に手を振ることだけが彼女の人間らしい姿でした。幼い日々を母と暮らした懐かしの東京。しかしそこにも希望も美しい思い出さえもありません。病死しネズミに食われた母の思い出があるだけです。
 そこへ降ってわいたように現れたマジシャン。小さなビンの中に自らの体を閉じ込めてしまうという奇想天外なマジックを公開した彼は、サーカス小屋を再起させ悲運なみどりを気にかけ、彼女を助手に取り立ててくれるのですが、けっきょくは彼もみどりを救ってくれるヒーローにはなり得ないのでした。お話しの結末は、ひじょうに後味の悪い、虚しさが悶々と募るものでした。

 こんなやるせないお話しに、なぜ心惹かれるのでしょう。独特の世界観と描画に興味を覚えるからでしょうか。それとも弱者を踏みにじる人間社会に対する義憤に共感を覚えるからでしょうか。怖いもの見たさでしょうか。
 ガロ系にあまりなじみのない人は、その内容が意外に普通であり、ちゃんとした人間ドラマになっていることに驚かされるかもしれません。B級スプラッタームービーで感覚が麻痺している人は、この作品が普通に感じることを反省してください。もっと異常なものを探しておいでなら、自費出版された猟奇作品あたりを探すしかありません。

 「少女椿」から30年の歳月を経た2014年、新作「トミノの地獄」の連載が月刊コミックビームで始まり、現在も連載中です。2巻までコミック化されています。少女椿の作風をそのままに、サーカス小屋そして悲運に弄ばれる少女が登場します。少女トミノの物語もどんな後味の悪い幕切れになるのか、とても楽しみです。

1984年 青林堂。
丸尾末広 著。
現在、2003年に発行された復刻版を amazon などで入手できます。ハード表紙の上製本でちょっとお高いですが、筆者は買ってよかったと大満足しております。

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