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少女椿【映画】

2016/06/29


 両親を亡くし身寄りのない14歳の少女みどりは、赤猫サーカス団に拾われますが、何の芸もない彼女は団員たちにいじめられる毎日を送っていました。田舎町でドサ回りを続けるサーカス団は、ほとんど客も入らず倒産寸前。そこへひとりの超能力者が現れ、一瞬にして小さなビンの中に入ってしまうイリュージョンを披露すると、大勢の観客が殺到するようになります。
 ワンダー正光と名乗る超能力者は、次第にサーカス団を仕切るようになり、いじめられっ子の みどりは目をかけてもらい、団員もうかつに彼女に手が出せなくなります。サーカス団を救い、自分にも優しくしてくれるワンダー正光に、みどりは次第に心惹かれるようになりますが、団員が変死し、刑事がワンダー正光を訪ねて来、彼におぞましい過去があることを知ります。

 原作コミックは1984年に発行されていますが、お話しの舞台は昭和13年(1938年)です。原作は筆者が24歳の年ですが舞台は筆者の両親がまだ幼少の頃です。原作を著した丸尾末広は筆者と同年代の作家ですが、
江戸川乱歩の影響を受けたと言いますから、お話しの舞台は江戸川乱歩の推理小説時代であると見ることができます。筆者も中学生の頃から江戸川乱歩にはかなりハマりました。猟奇殺人を扱った彼の推理小説は今から思えばなかなかのエログロ嗜好であったわけですが、当時はそんな絵柄は頭に浮かびませんで、絶妙なトリックの数々に夢中になったものです。筆者がそんな読み方をしていた同じ頃に、丸尾氏は色を付けたイメージで江戸川乱歩の世界を思い描き、エログロの妙を読み取っていたわけですね。この辺りが天才と凡人の差というやつでしょうか。
 日本文化は、とりわけ素朴を旨とした地味な色調を得意としますが、そこへ西洋の極彩色が徐々に流れ込み、蛍光灯もない夜ともなれば、街はなんとも言えない奇異で衝撃的な色合いを呈するのでした。和洋が混とんと入り乱れた当時の庶民文化は、あたかも洋と和の性交のようなものだったのでしょう。不穏な空気に満たされた夜の街角では、幾多の怪異が人知れず沸き起こっていたことか。日本におけるエログロの原点がこの時代にあったのかもしれませんね。
 猟奇殺人や奇怪なサーカス、奇人、怪人、魔物、そんなものが跋扈する世界に、ひとりの無垢な少女が迷い込みます。不気味な奇人怪人の中に、一輪の花のように咲いている可憐な少女、それが少女椿の世界です。なんとも魅惑的な世界観ですね。禍々(まがまが)しいほとんど妖怪のようなサーカス団の団員たちに翻弄されながら、それでも枯れずに咲き続ける小さな花、そのひた向きな姿が見る者を魅了します。
 病的なもの、不道徳なもの、殺人や災い、そうしたものをテーマにした退廃芸術はどうして人々を魅了するのでしょう。道義を重んじ、不潔なものを忌避しながらも、それらに興味を抱く本性のようなものが人々の心には内在しているからでしょうか。この映画は、広く知られる大作というわけではありませんが、徐々に人々の支持を集めて行き、思わぬヒットとなりました。

 筆者の交友関係にも、デカダンスや前衛芸術が大好きな人がいますが、意外にもまじめで実直な人が多いんですよね。そしてそういう人たちは話していてとても楽しいです。反社会的なものを嗜好する人の多くは、殺人や災いが虚構の中でこそ芸術性を醸し、現実のそれはおもしろみがないばかりか、人の暮らしから遠ざけるべきものであることをわきまえています。また、ヨーロッパでは、犯罪や性倒錯を扱った作品を嗜好することで欲求を満たし、それを現実生活に持ち込まないという発想があるそうです。
 むかしから犯罪をテーマにした小説や映画は、それを模倣する犯罪者を助長すると指摘されて来ましたし、現在もバイオレンスなビデオゲームが暴力のきっかけになっていると批判する識者が多いですが、それは物事を表層的な面しか見れない短絡的な思考の持ち主が、インテリを気取っているだけの愚行のような気がします。ビデオゲームやホラー映画の発展と犯罪の増加はまったく比例していません。虚構と現実を混同してしまう識者の分別や人間性を心配します。そうした亡者どもがエリートづらして社会で重職に就いている実情を不安に思います。
 こうした作品が多くの人々に(とくに若い人たちに)指示される現状は、人間性豊かな人がまだたくさんいるんだと安心させられます。

 科学万能の西洋文化が、日本の神秘主義の中にどんどん入り込んでくる時代に、明智小五郎が科学的な推理で猟奇殺人の種明かしをしていた、当時はきわめて斬新で画期的であった虚構の中で、日本独特のエログロ芸術が芽生えていったのでしょう。明智小五郎は少年たちのヒーローでありながら、アングラ芸術の草分けでもあったのです。
 作品の内容にほとんど触れず、その背景となる社会情勢にばかり着目してしまいましたが、ほんとうにおもしろかったです。腐敗した環境と不気味な奇人たちに囲まれて、人形のようなぎこちないしぐさの みどりがたいへん輝いていました。じつに素晴らしい絵柄です。みどりは病床に伏した母と2人暮らしで、その母もネズミに内臓をえぐられて死んでしまい、サーカス団に拾われることになるのですが、楽しいことなんか1つもなかった母との暮らしを、それでも懐かしみ、かつて母と暮らした東京へ向かう汽車に一心に手を振ります。まるで機械仕掛けのような手の振り方が、逃れられない彼女の悲運を象徴しているようで心打たれました。みなさんも、逃れられない運命から解放されたくてもがいていませんか?
 ひとつだけ物足りなかったのは、抽象的な表現が抑え目だったこと、ですかね。もっと不気味でもっと不思議で意味不明な映像を多用してほしかった気がします。ストーリー性よりも表現を重視してほしかったです。ただ、これは少数意見かもです。これまでこうした作品が苦手だった人にとっての入門編になり得たらいいですね。
 DVDは11月発売とのことです。要チェックです。

2016年、日本、90分。R15+
原作:丸尾末広。
監督、脚本:TORICO。
出演:中村里砂、風間俊介、森野美咲、武瑠、佐伯大地、深水元基、中谷彰宏、鳥居みゆき、鳥肌実、漆崎敬介、マメ山田、手塚眞ほか。

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