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帰ってきたヒトラー【映画】

2016/06/24


 ドイツにとってヒトラーネタはどうなんでしょうね。リストラに遭ったショボい映画監督ファビアンが、ドキュメンタリー映画を撮っていると、そのフィルムにヒトラーらしい人物が写り込んでいます。彼はその人物を探し出し、実際に会ってみると容姿も身のこなしも言動もヒトラーそっくりで、けっして素を現しません。その完璧な成りきりぶりに、彼を出演させた映画を作り、それに再起を賭けます。
 現在に蘇ったヒトラー総統は、映画監督と共にドイツ中を旅し、民衆の意見に耳を傾け、ドイツの現状と政治を痛烈に批判します。どこへ行っても毅然とした態度を崩さすカリスマ性を発揮し、多くの民衆を虜にしてしまう彼は、やがてテレビ番組でも有名になり、多くの聴衆が、ドイツに新たな改革をもたらそうとする彼の声に耳を傾けます。
 政治家の不正に対して怒りの声をあげない民衆を叱咤し、革新党の消極的な態度を党本部に乗り込んで痛烈に批判し、はたまたネオナチにヒトラーに対する冒涜だと攻撃されます。それでもゆるぎない姿勢の彼を人々は賞賛し、彼の人気は上昇するばかりでした。

 ヒトラーと言えば、残忍な独裁者としてあまりにも有名で、おそらくドイツ本国においても彼を絶賛する人は多くないでしょう。それを現代ドイツが英雄扱いするところがあまりにも大胆です。日本人なら、諸外国からどう思われるかを気にして東條英機を礼賛する映画などとても作れないでしょうし、そんなものは国が抹殺してしまうでしょう。でも、ご覧いただければ解りますが、この作品はヒトラーを肯定したり英雄視する内容のものではなく、現代社会の在り方を痛烈に批判するために歴史上の怪人を現代に蘇らせたわけです。
 映画では、なんの前触れもなくいきなり現代に登場したヒトラーが描かれていますが、原作小説ではベルリン陥落時、自殺直前にタイムスリップしたと表現されているようです。日本にも通じる格差社会や不平等税制、議員選挙の不正、そんなものを声高々に批判できるのは、アドルフ・ヒトラーくらいのものだろう。原作者のそんな感慨が感じ取れます。
 この映画を観ていると、高い知性で知られるドイツ人が、第二次大戦当時どうしてヒトラーを支持し、ナチズムに走ってしまったのか、少し解るような気がします。ヒトラーのカリスマ性には民衆を扇動する大きなパワーがあるんですね。それが真に民衆のために行使されれば、彼は本当の英雄になり得たかもしれない。ふとそんなことを思いました。
 映画の中で人々は、誰も彼を本物のヒトラーとは思わず、ひじょうにレベルの高い人まね芸人だと信じています。彼を本物の怪物だと見抜くのは、認知症の老婆と、彼を採用したファビアンくらいのもので、真相に気づいた彼も正気ではいられなくなってしまいます。真相を知らずヒトラーの扇動に踊らされている多くの民衆だけが、彼を称賛し浮かれているのでした。
 インターネットを利用した様々なSNSが蔓延する現代社会に、アドルフ・ヒトラーが正々堂々と参与したらどうなるか……恐ろしいですね。でもなぜか、新星ヒトラーは、たとえアドルフ本人であるにしても、凶悪な独裁者にはならないような気がします。かつてのヒトラーももともとはユートピア構想を実現するために立ち上がりました。しかしながら高邁な理想はそれを阻む勢力を弾圧する凶暴な軍事行動へと変貌していったのです。
 もしかすると、ヒトラーとは今もむかしも大衆が思い描いた理想や恐怖、欲望の表れなのかもしれませんね。映画の中でもヒトラーは言っています。私は常に民衆と共にある、民衆が私を選ぶのだ、と。

 ひじょうに考えさせられるコメディですが、ファビアンと共に方々を旅し、民衆の声を聞いて回る前半パートは、淡々としたドキュメンタリータッチでかなり退屈です。もちろんその中にもたくさんのユーモアと風刺が盛り込まれており、解る人にはおもしろいのでしょうが、かなり高度です。
 ヒトラーを主人公にして映画製作が指導すると、物語は大きく動きだし、楽しくなります。そして作中で作られる映画のラストはかなり衝撃的です。
 映画の成功を祝してオープンカーに乗って街頭の人々に手を振る様は、さながら前時代の独裁者の再来であり、再びヒトラーを得たこの世界は、これからどうなるのだろう、そんな心配を真剣にしそうになりました。

2015年ドイツ、116分。日本公開は翌年。
原作「彼が帰ってきた」ティムール・ヴェルメシュ。
監督、脚本:デヴィッド・ヴェンド。脚本:ミッツィ・マイヤー。
出演:オリヴァー・マスッチ、フランツィシカ・ウルフ、カッチャ・リーマン、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、ラルス・ルドルフ、マイケル・ケスラー、トーマス・ティーメほか。

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