kepopput.jpg

美しい夜、残酷な朝

2015/01/25


 とても残酷で猟奇的で、それでいて悲しくも美しい、現実と夢幻の境界をさまようような3つの短編から成るオムニバス作品です。日本、韓国、中国の合作で、各国が一遍ずつ作品をべつべつに製作しています。それぞれの国の特徴がよく出た内容でありながら、衝撃的な映像と内容に一貫性があり、とてもよくまとまった映画に仕上がっています。
 「cut」韓国編。リュ・ジホは映画監督として成功し、地位と名誉と資産を手に入れますが、あるとき帰宅すると妻がピアノの前に座った状態で縛られています。家に侵入したストーカーの男が、連れ込んだ少女をジホに殺せと命じます。ジホがそれを拒むと妻の指が1本ずつ切断されてゆきます。妻か少女か、命の選択を迫られるジホに、男が衝撃的な告白を始めます。
 「box」日本編。小説家の鏡子は箱に閉じ込められる夢と姉の幻影に苦しめられています。幼いころ双子の姉と共にサーカスに出ていた彼女は、父親代わりの座長が姉ばかりをひいきにすると思い込み、姉をマジックに用いる箱に閉じ込めてしまいます。その箱に火がつき、悲嘆にくれた座長は、鏡子を残して姿を消してしまったのでした。
 「dumplings」中国編。資産家の夫を持つキン・リーは、何不自由のない暮らしをしていますが、その美貌が徐々に衰えて行くのだけは止めることができません。そんなある日、若返りの効果がある餃子を売る闇商売を知り、試してみることにします。効果はまちがいありませんでした。店に通うようになるキンはしかし餃子の恐ろしい中身を知って驚愕します。

 日本のタイトルがひじょうにセンシブルです。残酷な夜、美しい朝だったら、かなりニュアンスがちがっていたでしょう。残酷で恐ろしい出来事も終わって美しい朝が来る、みたいな。タイトルどおり美しい夜の場合、それに続く残酷な朝が、夜の闇に潜む恐ろしいものを想像させます。そして残酷な朝の語句には救いがありません。夜が明けても惨劇が夢ではなかったと、リアルに痕跡が浮かび上がります。
 3編の主人公は、映画監督、作家、資産家の妻と、不自由のない暮らしをしていますが、内心はとても孤独で心にぽっかりと穴があいています。韓国編の映画監督は、たいへん充実した日々を送っているように見えますが、ストーカーの男によって影のある過去が露呈して行きます。日本版お女流作家は、筆1本で食べて行ける身であるものの、過去の過ちと姿を消してしまった父親変わりの男の面影を断ち切れず、心は沈みきっています。中国編の実業家婦人は、豊かで周りからちやほやされる暮らしをものにしたおかげで、美貌の衰えという恐怖に苦しんでいます。

 日本編は、抽象的でストーリー的にはやや難解です。主人公の女流作家が抱えている、幼少の頃の残酷で悲しい思い出は、夢や亡霊となって彼女を苦しめ続けています。彼女は、いまだに原稿を手書きするという先時代のスタイルにこだわり、彼女に好意を寄せる編集担当の男性にもまったく興味を示しません。彼女自体が過去の亡霊のような存在と化してしまっています。静けさの中に胸がざわめく情景が横たわる、映像美の世界です。
 中国(香港)編は、もっとも単純明快なお話しになっていますが、シチュエーションとしては一番強烈でしょう。資産家の貴婦人が、怪しげな店(貧しい団地の一室)に忍び、独りでテーブルに向かって若返りの餃子を食べています。それを食いちぎり咀嚼する様子のクローズアップ。その描写が、幻の餃子の食材を当ててみろと言っています。人肉ていどのものを誰もが想像するでしょう。婦人が帰ったあと、別の来客がお店に現れます。悲壮な顔をした高校生くらいの娘と彼女に付き添った母親。ここを訪れた理由は人目を忍んで堕胎するためです。それを請け負う女は、経費以外のもうひとつのものを手に入れるのです。餃子の秘密を知ってしまった婦人は、しかし若返りの効果をあきらめきれません。人間社会の裏表、光と闇の縮図が小さな団地の一室で繰り広げられています。
 勧告編は、ストーリー的にもっとも技巧的で、もっとも引きつけられます。話しが進むにつれて次の展開がどうなるのか目が離せなくなってゆきます。誰もがうらやむ成功した映画監督、ところが帰宅してみると妻が、ピアノの前でクモの巣にかかったような恰好で縛り上げられています。ナイフを手にした男と、縛られてソファに横たわる少女がいます。妻を救いたかったら、この娘を殺せ。映画監督がそれを拒むと、妻の指が1本ずつ切断されて行きます。男の口に自分の過去にまつわる話しが登り、彼は次第に毅然とした態度を維持できなくなり、ヒステリックになり、命じられるままに尻文字ダンスを踊ります。命じられるままに少女の首に手をかけます。無様に腰を振ったり、泣きながら少女の首を絞める汚れ役を、名優イ・ビョンホンが友情出演でノーギャラで演じています。

 誰にも放せない秘密やウソを抱えている人は少なくないと思いますし、そうした裏のない人間の方がむしろ珍しいかもしれません。聞いた話しなのですが、社会的に高い地位にある人や、知名度が高くて常に人前で緊張を強いられる生活をしているような人ほど、じつは倒錯した性癖を持っていたり変態的な遊びを嗜好するのだそうです。裏で人に言えないようなプレイに身を落とすことによって精神のバランスを保ち、表の顔を維持しているのだそうです。
 古い歴史にも残忍な王侯貴族や貴婦人の話しがたくさん登場しますが、富や名声を占有するという人もうらやむ華やかな人生の陰には、しばしば狂気が潜みます。そもそも有り余る財に埋もれて暮らすこと自体が人として異常なことなのかも知れませんが。自分に溺れる人間は往々にして周りが見えなくなり、身の破滅を招くような愚行に走ることがあります。社会的地位と狂気に陥る危険は、紙一重であり、そうした人生はまさに綱渡りです。
 この作品の3人の主人公たちは、自ら狂気を招くようなことをするわけではありませんが、忍び寄ってきた悪魔によって狂気に陥れられてしまいます。韓国編の映画監督はストーカーの男によって忘れてしまいたい過去を蒸し返され、中国編の資産家婦人は自らの美貌に取り憑かれています。日本編は他の2編に比べると異質ですが、少女は双子の姉を妬み座長を占有したいと望み破滅を招いてしまいます。  生きるということは、何かに犠牲を強いることかもしれません。生きるために食べるのは稀本ですから。より豊かに、より華やかに生きるということは、もっと大きな犠牲を他者に強い、罪の重みに耐え続けることかもしれません。
 社会の陰に潜む血みどろの猟奇を描いたこの作品に、筆者が言うような政策意図はないのでしょうが、なぜか教訓めいたものを感じてしまいました。

公開2003年、124分。日本公開は2004年、R15+。
「cut」 監督:パク・チャヌク。出演:イ・ビョンホン、カン・ヘジョン、イム・ウォニほか。
「box」 監督:三池崇史。出演:長谷川京子、渡部篤郎ほか。
「dumplings」 監督:ルーツ・チャン。出演:ミリアム・ヨン、レオン・カーフェイ、バイ・リンほか。

コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

目 次
能書き

思うこと全般

けぽっぷ体験

アイドルのこと

韓流映画

番外編


索引 韓流映画&番外編





  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

サイト内検索

NEW ENTRIES










recent comment

links

プロフィール

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM