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ラブストーリー

2015/01/23


 恋愛映画はほとんど観ません。つまらないだろうし退屈するだけだろうと思うからです。異性と恋愛するとか、関わり合いを持つということは、筆者の住む社会では、普通の人間にだけ許されることであり、筆者のような生まれながらにして女性の敵と言われる者にはその資格がありません。高校は男子校で卒業後は鉄道会社に入社し、異性とはずっと疎遠な暮らしを続けてまいりました。筆者にとって女性とは、映像や画像で楽しむものであり、生身の女性と関わることは平和な暮らしを脅かすこと、悪くすると身の破滅をもたらすことになりかねません。最近は雑踏や電車の中でだまたま女性の近くに居合わせただけで痴漢扱いされることがあるそうですから、街に出るのも大変です。でも街に出なければ勤めにも行けないし、映画館にも行けないので、ひたすら女性を避けながら、忍ぶようにして行き過ぎるしかありません。
 人間の社会生活では、自分より劣るもの醜いものを見下すことでステータスを確立するものだそうですから、筆者のようなものに異性と関わる資格がないことは仕方のないことです。人を見下そうにも自分より下がいない人間が、今日まで無事に過ごせただけでもありがたいことです。

 映画館に着きましたよ。チケット売り場で映画のタイトルを申告するのは、まぁ平気です。生きていること自体が恥さらしだと言われてきた自分には恥じることなどありません。数名の客の後ろに並んでおりますと、さて自分の番というところで、窓口の女性スタッフはさりげなく逃げました。ひどっ、と一瞬思いましたが、上映時間から察して、この異常者の口に「ラブストーリー」のタイトルが登ることは充分に考えられます。若い女性スタッフにとってそれは耐えがたい体験ですから仕方ありません。すぐに状況を把握した筆者は納得して、隣の窓口に並び直しました。そこには安心の男性スタッフがいらっしゃいました。ならば最初からそっちに並べよってなもんですが、小さな劇場では、どの窓口に並ぶでもなく、漫然と人の列ができ、前の人から順に空いている窓口へ向かう仕組みなのです。男性スタッフは、終始笑顔で筆者に「ラブストーリー」のチケットを発券してくださいました。とても高徳な方です。
 なんで恋愛映画を観ようと思った? という質問は無用に願います。単なる気の迷いです。周りに不快な思いをさせることは謝ります。でも憲法上違法性はないはずです。一般常識には抵触しそうですが。

 女子大生のジヘは、同じ大学の演劇部のサンミンに思いを寄せますが、友人のスギョンがサンミンに恋していることを知り、自分は身を引き、スギョンに頼まれてメールの代筆をします。ある時、母の手紙を整理していた彼女は、古い日記を見つけ、母ジュヒの知られざる過去を目にすることになります。
 1968年夏、ジュヒは田舎の叔父の家に遊びに来ていた折りに、地元の学生ジュナと知り合います。2人でお化け屋敷と呼ばれる廃屋を探検したのをきっかけに、互いに惹かれあうようになるのですが、ジュヒには親が決めた婚約者がいました。ジュヒの婚約者テスとジュナは学友で、ジュナはテスに頼まれてジュヒへのラブレターの代筆をします。議員の娘であるジュヒは家庭が厳しく、手紙も親に検閲されるので稚拙な文章ではだめで、文章の上手いジュナに頼みたいというわけです。ジュナは自分のジュヒへの思いをテスの名で綴ります。
 ジュヒとジュナは人目を忍んで逢瀬を繰り返しますが、叶わぬ恋をあきらめようと、ジュヒはもうジュナには会わないと宣言します。2人の関係をしったテスは、自分が身を引くことにし、それが父親に知れて父の怒りをかいます。上流階級にとって親が決めた縁談を断ることは、家名に泥を塗ることです。苦しんだテスは自殺してしまいます。なんとか一命を留めたテスの入院先で、ジュナとジュヒは再会しますが、ジュナは命まで投げ出した友を裏切れないと、ジュヒからもらったペンダントを返して立ち去ります。  泥沼化するベトナム戦争に、韓国軍はアメリカの盟友として参戦しますが、現地に赴く兵士たちを乗せた列車の中に、ジュナの姿がありました。

 日本でも大ヒットした「猟奇的な彼女」のクァク・ジェヨンのメガホンによる作品です。母ジュナの学生時代の恋愛物語が主な多くのパートを占めますが、古い時代のエピソードにも前作同様のコミカルなジーンが満載でとても楽しめました。前作のヒロインは「ぶっ殺されたい?」と言ってやたら拳を揮う荒っぽい彼女でしたが、本作のジヘとジュヒ(ソン・イェジンの二役)は清楚でしとやかな女性です。ベトナム戦争の頃と言えば今では古い時代ですが、日本ではお家主義の結婚や政略結婚を義しとする考え方はほとんど残っていなかったと思います。韓国ではまだ上流社会の常識だったのでしょうか。なんだか戦前の日本の古いドラマを観ているようでした。ジュヒたちの学校生活やジュナの出兵シーンも、日本と比較するとかなり古い時代のことのように思えました。ただ、時代的差異を感じるものの日韓の文化のちがいは感じられず、むかしの日本のドラマさながらでした。
 テスは長身のイケメンで親が資産家で「おれはひとりの女性だけを愛するタイプの人間じゃない」なんてセリフを臆面もなく吐くキザ野郎ですが、その内面はとても繊細で、親友思いです。ジュヒとジュナの純愛に気づいた彼は、ジュヒと付き合うのはお前の方が相応しい、そうサラッと言い放ち、自分は身を引きます。それが父親に知れてひどい折檻を受けますが、そのことを自分の胸の内にとどめて苦しみ、自殺してしまいます。かろうじて一命を取り留め、ジュヒとジュナが別れたことを知ると、彼はジュナの出兵を知ってジュヒを彼の元に連れて行こうとします。動き出した列車を、彼はジュヒよりもずっと追いかけていました。
 原題の「The Classic」通り、作中にはカノンや四季、そしてジュヒがピアノで奏でるベートーベンの悲愴などが流れますが、セピア色のラブストーリーにとてもよく合っていました。名家の体裁のことしか考えないジュヒやテスの親が、若者たちの純粋な気持ちを踏みにじろうとするのが、まるで庶民生活を脅かす国家権力みたいでした。どうにもできない強大なパワーに阻まれてしまう恋だから、悲しくて美しいのでしょうね。
 ソン・イェジンという女優は、悲劇のヒロインの似合う女優だと思いました。古い表現ですが、荒れ地に咲くユリのように、厳しくつらい環境の中で輝きを放つ、そんな演技がとても素晴らしかったです。ジュヒ役のおさげ髪は、ちょっと無理があるように感じましたが、それがむしろ古い時代をうまく演出していたと思います。

 以下はネタばれです。本編を観たあとにお読みください。
 出兵したジュナは、ベトナムの激戦地で敗走を強いられますが、その際に出兵間際にジュヒから渡されたペンダントを落としてしまい、それを取りに行って被弾してしまいます。
 歳月が流れ、帰国したジュナはジュヒに会いに行くことにします。「たいへんご無沙汰してしまいましたが、あなたは少しも変わっていないのですね」「いいえ、私も年を取りました」「ご結婚は?」「独身です」「そうでしたか、僕は結婚したと言うのに」2人はむかしのようには親しく会話できません。「これを返そうと思って。ベトナムで命がけで守ったんです」ジュナはジュヒにペンダントを返そうとしますが、彼女はそれをジュナに持っていて欲しいと言います。
 ジュナは、ジュヒをあきらめることを決意し、出兵する列車でも、彼女が彼を見つけても顔を見ようとしませんでした。それでも列車が動きだし、ジュナの切ない涙声が遠ざかろうとするとき、感極まって席を立ちます。加速する列車から手を伸ばし、ペンダントを受け取ったのでした。そして戦地でそれを守ろうとしたせいで重傷を負ってしまいます。
 別れた2人は、再び会うことはありませんでした。ジュナがジュヒにペンダントを返そうとしたのは、彼女にもう1度だけ会いたいという、いわば口実だったのかも知れません。すでに別の女性と結婚しており、しかも戦争で失明し彼女の顔も見ることができないというのに。  その後、ジュヒもテスと結婚しジヘが生まれますが、ジヘがまだ幼い頃に、ジュナが死んだという報せが届きます。号泣する母を、小さな娘は何も解らずに見守るだけでした。

 激しい雨の木陰で雨宿りをしていたジヘの元に、サンミンが駆け寄ります。僕も傘がないんだ。そう言って苦笑する彼は、自分の上着を傘代わりに彼女をかばって駆け出します。ジヘにとっては憧れの男性との甘いひとときでしたが、友人のことを考え、校舎に着くと彼を振り切って逃げるように立ち去ります。
 後日、サンミンが雨で困っているジヘを見て、わざと傘を置いて彼女に近づいたことを知ったジヘは、サンミンも自分を思っていることに気づきます。
 母の日記を読んで、運命に引き裂かれた母と恋人の悲恋を知り、自分はそうなりたくない、ジヘはそう思ったのかもしれませんね。母の日記を読んでいなかったら、ジヘは以前と同じようにサンミンをあきらめていたかもしれません。でも恋敵のラブレターの代筆など、自分が母と同じことをしているのを知って、母がテスの元へ嫁いだあともジュナへの思いを断ち切れなかったのを知って、彼女は迷いが振り切れたのでしょう。母の日記が娘の背中を押したのでしょう。
 ジュヒとジュナがむかしホタルをとった水辺で、ジヘとサンミンも同じことをします。そしてジヘから母の思い出話をきいたサンミンは、父の形見のペンダントをそっと彼女に差し出します。遠い時を越えてペンダントはジュヒの娘の元へ帰ってきたのでした。
 巡り巡って娘の元に帰ってきたこのアイテムは、親子2代に渡るラブストーリーの象徴的な意味合いを持った重要なものに思えましたが、この演出を上手いと思う人もいるでしょうし、出来過ぎていてかえって白けると感じる人もいるでしょう。筆者は感激屋な方でして、こういうのは大好きです。すっかり感動して涙ボロボロです。
 ひとつ不満を申すなら、このアイテムの重要度をもっとあげてほしかった。「おじさんにもらったものなの、他に何もないからあげる」それはそれでシチュエーション的には良いのですが、じつは大切な思い出がこもっているとか、ここ一番の時のお守りなんだとか、ジュナに「そんな大切なものもらえないよ」 と言わしめるような"重み"があれば、数奇な運命を経て娘の元に戻ってきた時の感動もより大きかったと思います。手の中で光るペンダントを大写しにして観客に印象づけるといった視覚的な演出もあればよかったと思います。

 家柄のちがいや戦争や、人間社会の仕組みというものはどうしていつも若い男女の純愛を踏みにじろうとするのでしょうね。あるいは人は、引き裂かれる運命と解っていながらどうしてこんなにも惹かれあってしまうのでしょう。バッドエンドがあまり好きじゃない筆者には、ジュヒとジュナの悲恋物語は辛すぎましたが、2人の思いがジヘとサンミンのハッピーエンドで救われて良かったですね。
 みなさんは、燃えるような恋がしたいですか? したことありますか? 筆者はそんなことこれっぽっちも考えたことがありませんが、ジュヒとジュナのような恋人たちがいたとしたら、それを邪魔する奴らを、簀巻きにして怖い虫と妖怪がうじゃうじゃいる枯れ井戸の底に、そっと沈めてやりたい、そんなふうに思いました。ふふふふふふっ。

原題:The Classic。2003年公開、129分。
監督、脚本:クァク・ジェヨン
出演:ソン・イェジン、チョ・スンウ、チョ・インソン、イ・ギウ、イ・サンインほか。

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