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メビウス

2015/01/03

 久々になかなか変な映画を観ました。とてもいい感じに変だったので、紹介したいと思います。日本ではR18指定ですので、高校生以下の人は観てはいけまへん。主役の1人に高校生がいますけど。変といってもシュールレアリスムとか、ナンセンスとか、そんな類のものではなくて、キム・ギドクという監督が人間を追求するとこうなるという、ある意味リアルよりもリアルな人間ドラマです。本編にはセリフが一切ありません。言葉による表現を超えた心情描写には必要なことだったのでしょう。映画紹介の某サイトには字幕版と書かれてありましたが、もちろん字幕なんてありません。
 保険金詐欺という題材で、韓国の貧民層を襲う恐怖を描いた「嘆きのピエタ」という映画もドロドロでしたが、本作品はさらにドロドロで汗くさいです。セリフがない分、役者の表情や仕種の細部がより饒舌であると言えます。
「嘆きのピエタ」でもゆがんだ家族関係が浮き彫りにされますが、本作のそれはさらにゆがんでいて生々しいです。  夫の浮気に逆上した妻は、夫の性器を切り落とそうとして失敗し、そのまま高校生の息子の部屋に侵入し、息子の性器を切断してしまいます。妻は行方をくらまし、父と息子の苦悩の暮らしが始まります。学校で小用に失敗するところを友人に見つかり、彼はイジメに遇います。息子はとある独り暮らしの女性と知り合いますが、その女性が暴漢に襲われるのを助けに入った騒動で、逮捕されてしまいます。息子の悲惨な境遇に耐えかねた父は、病院に行き、自らの性器を切断し、息子に移植することを考えます。またネットで性器がなくても自慰をする方法を調べ、それを息子に伝えます。息子が釈放されると、父は彼を病院に連れて行き、性器を再生する手術を受けさせます。

 いかがです? 変な映画でしょう? 「嘆きのピエタ」では、主人公は、貧しい労働者に金を貸し、代わりに保険に契約させ、返済できない場合は、負債者の手などを事故に見せかけて切断させ、降りた保険金で返済させるという保険金詐欺をやっています。返せないのなら障害者になれ、それで円満に解決できる。淡々とそう語り負債者の手が機械に巻きこまれて砕けるのを傍観します。とても痛くて胸が締めつけられるシチュエーションですが、「メビウス」では、母親に性器を切り落とされるというさらにレベルアップした苦痛が生々しく描かれます。また被害者の苦痛とその後が入念に描かれるところが強烈です。
 自分の浮気が原因で、息子が妻によって不能者にされてしまう。信じられないような悲劇が、彼を息子への献身に駆り立て、母がいなくなった家庭で父子の奇妙な愛情が育まれます。悲壮感に満ちた父と、父の献身を無表情にそして従順に受け止める息子。それは息子にとっては終わらないショック状態のようにも見えます。また、息子が出会い性欲をかき立てられる独り暮らしの女というのが、父の浮気相手だったりします。
 夫の浮気に対する怒りを息子に向ける母の心情は何なのでしょう。怒り狂った彼女にとっては夫への復讐がもはや男への怒りになってしまっているのでしょうか。また母を演じるイ・ウヌは夫の浮気相手にして息子が関わることになる女の二役を演じています。この二役にも、女というシンボリズムのようなものを感じます。人の"性"はかくも壮絶に人の狂気や絆といったものを浮き彫りにするものなのでしょうか。性という文字は、セイともサガとも読めますが、この文字にもなんだか象徴性を感じてしまいます。
 強烈な映画でした。寝ている息子にナイフを使う母というシチュエーションも強烈ですが、性器を失くした男の自慰というのがまた壮絶です。そして全編セリフなしという表現も、この映画の題材と相まって異様で、息づかいや叫びが前面に押し出されて来て耳を覆いたくなるほどです。

 「嘆きのピエタ」では、貧窮する労働者を襲う保険金詐欺という問題が、韓国の現実社会を直接的に批判していて、テーマ性がかなり明確ですが、本作品は社会批判とは関係なく、人間が抱えている性とそれにまつわる愛憎という捉えようがなくかつ深刻な問題にメスを入れているところが、まるで内蔵をえぐられるようで恐ろしいです。あなたもその体の奥底に暗く恐ろしいものを隠し持っているだろう、そんなキム・ギドク監督の声が聞こえてきます。
 この映画は前作よりも、観客の捉え方にかなり幅ができると思われますが、人の内面をえぐり出すことにかけては、キム・ギドク監督は情け容赦のない人だなと思いました。

  2013年、83分。日本公開は2014年

監督、脚本:キム・ギドク。 出演:チョ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ、イ・ウヌほか。

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