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サイボーグでも大丈夫

2014/12/27

 「オールドボーイ」 「親切なクムジャさん」を大ヒットさせ、その異才を見せつけたパク・チャヌク監督のこれまた奇妙な作品です。韓国では上の2作品がチケット売上300万枚を超えたのに対し、本作品は78万枚の売上にとどまり、ファンにとっては期待外れの映画になったようですが、筆者にとっては、前2作に劣らない、あるいは越える大好きな作品です。上の2作品に「復讐者に憐れみを」を加えた復讐3部作は、残酷描写の生々しいひじょうに血なまぐさい作品でしたが、本作は明るい色彩のラブコメディです。
 ラブコメといってもそこはパク・チャヌク監督、キラキラした青春映画にはなり得ないわけで、舞台はとある精神病院です。病棟の白を基調にした建物のおかげで映画の雰囲気もとても明るくなりました。自分をサイボーグだと信じている少女ヨングンは、アルツハイマーで入院してしまった祖母を病院から救出し大切な入れ歯を渡そうと企てていましたが、自らが重度の偏執狂と診断され精神病院に入院してしまいます。同じ病院に入院していた青年イルスンは、人のクセや性格まで盗んでしまう怪盗で、ある時ヨングンはイルスンに、自分から同情心を盗んでほしいと依頼します。同情心があるばかりに自分は祖母を救うために病院の関係者を殺すことができないからというのです。依頼を受けたイルスンは、ヨングンを観察し始めますが、サイボーグである彼女は食事をとると故障してしまうということで、充電のために乾電池を舐めているだけです。次第に憔悴して行く彼女は、やがて集中治療室に入れられてしまいます。
 集中治療室でもなかなか回復しないヨングンを、イルスンは強引に連れ出し、彼女のために策を講じます。乾電池では君を動かすための電力が足りない、そしてここには充分な電力もない。そこでこんな装置を作ってみた。これは体内に装備することで、食事をエネルギーに変換してくれる。君は人と同じように食事を摂ることで充分なエネルギーを得ることができるんだ。

 病院はユニークで楽しい患者たちであふれています。特殊な靴下の摩擦エネルギーで空を飛ぼうとするおばさんや、自分をアイドルだと信じ常に手鏡を持ち歩き綺麗な声で歌っている少女、卓球おじさん、延々と作り話を続けるおばさん。自分の世界に閉じこもっているはずの患者たちが、それぞれ自分の勘ちがいで絶妙にコミュニケーションをとっていて、1つの世界が構築されている様子がとても面白いのですが、笑えない部分もあったり。すなわち健常者を自認している僕たち私たちと、彼らと、ていどの差こそあれ本質にちがいはないのではないか、ふとそんな思いに駆られてしまいます。みなさんだって常に現実を見ているわけではないでしょ? 赤毛のアンも真っ青な空想壁をお持ちの方も、きっと大勢いると思います。精神病院は、様々な思いが渦巻いている人間社会の縮図です。
 いよいよ祖母を救出する決意をしたヨングンが、指先から銃弾を連射し、口から薬莢を吹き出しながら医師たちを射殺して行くシーンはかなり壮絶です。殺人マシーンと化したサイボーグ・ヨングルの暴挙をもう誰も止められません。逃げ惑う医師たちにひじょうに撃ち込まれる無数の弾丸。病院は地獄の戦場と化し、死体の山が築かれ、施設が破壊されてゆきます。この残酷描写は、さすがパク・チャヌク監督ですね。殺人マシーンの射撃は正確で、患者たちには傷を負わせることなく、病院関係者だけをあっという間に殲滅してしまいます。
 重度の偏執狂を持つ人間と接触する機会はなかなかありませんが、この映画を見ていますと、ほんと彼らと自分とのちがいがよく解らなくなってきました。ふと、フランスの古典映画「まぼろしの市街戦(1966年)」を思い出しました。イギリス軍の追撃から敗走するドイツ軍がフランスのとある田舎町に時限爆弾を仕掛けて行きます。追ってきたイギリス軍を吹っ飛ばすためです。情報を得た町の人たちは非難して町から出て行きますが、警告に従わない精神病院の患者たちは、誰もいなくなった町にあふれだし、思い思いの自分を演じます。主人公のイギリスの通信兵によって時限爆弾が解除されると、ドイツ軍が舞い戻り、イギリスの偵察隊と鉢合わせしてしまい、彼らは即座に撃ち合いを始め双方とも全滅してしまいます。傍観していた精神異常者たちは、こんな狂気の沙汰はごめんだと、元の平和な病院へ帰ってゆきます。「まぼろしの市街戦」は狂人に戦争の狂気を笑い飛ばさせる戦争批判映画の名作ですが、非常な経済社会に生きている我々だって他人事ではありません。自己の思いに過度に固執する人間が精神異常だというなら、競争や格差を宿命と盲信して同じ人間同士憎み合っている我々はどうなのでしょう。
 ヨングンとイルスンは、やがてより大きな電力を雷から得ることを思いつき、病院から脱走しますが、2人は自分たちでは気づかないまま恋に落ちているんですね。さわやかだ。

 なんだか、図らずも2本の映画を紹介してしまったような次第ですが、この名作がパク・チャヌク監督の前作前々作よりも興行成績が揮わなかったというのは、とっても残念な気がします。この作品をこそもっと大勢の人たちに観てほしかった、そう思います。笑いと涙と、そして考えさせられること山盛りの、愛蔵して何度も観かえすべき名作です。

2006年公開、107分。日本公開は2007年。
監督:パク・チャヌク、脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン。
出演:ピ、 イム・スジョン 、 チェ・ヒジン、 イ・ヨンニョ、キム・ビョンオクほか。

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