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シークレット・ミッション

2014/12/18

 いつも緑のジャージ姿でヘラヘラと笑っているリュファンは、近所の子供たちからもからかわれる頭の弱い青年だった。ある時ふらりと町に現れた彼は、独り身の中年女性の家に身を寄せるようになり、彼女をオンマと慕いながら店の手伝いもよくし、息子のように可愛がられていた。彼の小さな田舎町での平穏な暮らしももう2年になる。そんなある日、ミュージシャン志望の髪を染めた青年ヘランが町を訪れ、続いて高校生のヘジンが越してきた。小さな町に訪れた小さな変化はしかし、リュファンの暮らしを大きく変えることになる。
 3人はじつは旧知の中であり、北朝鮮から送り込まれたエリートスパイだったのだ。彼らは平凡な韓国人として平凡な暮らしに溶け込み、人間関係を観察しながらひたすら祖国からの命令を待つという暮らしを続けていたのだ。  ところが、祖国で支配者が変わり、韓国との歩み寄りに政局がシフトすると、スパイ活動を推進する彼ら3人の所属する特務機関は、政府の都合で裏切り者ということにされてしまう。高官は政治を円滑に進めるためにも組織の解体と、潜入先のスパイたちの自決を命じる。
 リュファンたちは、スパイとして韓国に潜入した時から、祖国のために死ぬことは覚悟していた。それにしても諜報活動も命じられず、初めて命令らしいものが下されたと思えば、自決せよの一言。そのあまりにもの理不尽さに当惑してしまう。せめて祖国に残してきた実母は健在なのか、幸せに過ごしているのかと問うも、それが反駁と見なされてしまう。
 彼らとは別に韓国に潜伏していた科学者は、彼らと同じ町の気のいい隣人として彼らを観察し続け、韓国への長期の潜伏がスパイの人間性を変えてしまう、潜伏は北朝鮮に損失をもたらすこともあり、彼ら3人はその好例だと結論づけ、持論の正しさを祖国に証明しようとする。
 即座に自決を判断しなかった3人を抹殺すべく、特殊部隊が韓国に送り込まれる。部隊長は彼らに武術やスパイ道を叩き込んだ師範だった。
 自決する前に、母の無事が知りたいというリュファンの問いに対する祖国の返答は、裏切り者の組織に身を置く者の母が無事でいられるわけがないという情け容赦のないものだった。
 一方、潜伏先のスパイを抹殺する部隊が韓国に派遣されたという情報を得た韓国の警察は、スパイたちを脱北させ、暗殺者から身柄を保護し、北朝鮮の非道な諜報任務活動を崩壊させようとする。ところが、3人は警察の投降の呼びかけにも応じず、祖国からの追撃者と対峙する構えだ。孤立無援となった3人の運命は絶望的なものだった。

 はい、のっけから子細なネタばらしでした。この映画を観てみようと気にしていた方は、ご立腹ください。でもご立腹していただかないことには、この映画について筆者が語りたかったことの意味がないので、ご立腹していただけて良かったかな、と思う次第です。しかしながら、ここまでネタばれを読んでからご覧いただいても、この映画は大変おもしろいうえに、実際見てみると筆者の説明とかなりちがうじゃねぇか、っていう感想をいだかれるかもしれません。あんまりネタばれが過ぎると、それは観る人に対してあんまりなので、あえてピンボケに書きました。北朝鮮の韓国に対する諜報活動について知識がない人にとっては、上の説明で映画のシチュエーションが把握できて解りやすくなったということになれば、筆者としては喜びーなわけです。
 でだ、ご立腹の読者諸氏、ご立腹の矛先が理不尽な北朝鮮の政治家に向けられたりなんかしてませんか、いつの間にか。憎むべき宿敵韓国(そう教えられてきた)潜伏先で、若いスパイたちは、田舎町の隣人たちの熱い情に触れ、温かい人間関係に包まれてゆきます。一方で、彼らが愛すべき祖国は、政局が変わってお前たちの諜報活動はお国にとってまことに不都合なのだよ、つまりお前たちは祖国に対する裏切り者だから死んでちょうだいね、という冷淡な態度。ついでに裏切り者のお前たちの親兄弟も、当然無事でいられるわけはないわなぁ、なんてぬかしやがるわけです。命じたのは国だけど、それは失敗でした、失敗の責任はお前たちの命で償ってね、それが政治家の言い分です。  筆者は、北朝鮮を批判する気はまったくありません。まったくないのですよ。だって日本も同じじゃないですか。つい70年ばかり前まで、政府は若い人たちに外国人の惨殺を命じ、その罪を背負って死んで来い、それで国が富むのじゃ、なんて吠えてたわけですよ。あるいは、北朝鮮と敵対し、おれたち民主主義だぜ、なんて言ってる韓国政府だって国民に対してせっせと反日を煽ってるじゃありませんか。韓国も政局が親日に傾倒したら、国を信じて反日を叫んだ人たちは裏切り者扱いにされるのでしょう。
 この映画は、前半はコメディタッチで描かれ、後半はひじょうに緊迫したサスペンスになっています。まるで異なる作品のようにガラリと雰囲気が変わります。イケメンの人気タレントを起用し、笑いと涙の人間ドラマとして描いた前半パートで、主人公たちに親しみを覚えた観客は、彼らが遭遇する理不尽な悲劇に激怒することになります。そしてそれが北朝鮮憎むべしという感想になれば、政府のプロパガンダ映画として成功なわけです。
 しかしながら、聡明な観客のみなさんにはそうなって欲しくはありません。韓国は情に熱い良い国で、北朝鮮は憎むべき非道な軍事国家だ、そんな単純な感想は抱いてほしくないのです。自分は豊かに暮らしているから、この国は良い国だ。映画で申すなら韓国が善で、北朝鮮が悪となりますか。でも、資本主義の名の下に過度な資産家優遇と格差社会を構築し、若者がどんどん自殺する自殺大国、交通事故死大国になっちまっている韓国はどうなのでしょう。格差社会の勝ち組ちゃんは豊かで自由だから韓国は良い国、自由の少ない北朝鮮は悪い国ですか? 韓国の自殺者や事故死者と、北朝鮮の政治犯として殺される人の数は、どっちが多いのでしょう。北朝鮮では餓死も問題になっていますが、韓国の貧困層でもたくさん餓死しています。
 で、日本のみなさん。状況は日本も変わらないと気づいてください。資本家たちは、消費者の弱体化した日本では話しにならないね、これからの市場はアジアだね、なんて公言してはばかることもなく、とっとと日本を見捨てちまい、国内では資産家優遇の税制がますます強化され、超低賃金の若者労働者に対して、お前らが家も車も買わんから経済が回らねぇ、なんてほざいているわけさ。経済を停滞させ若者たちの未来を踏みにじってでも、余生を銭に埋もれて暮らしたい、使い切れないだけの銭があってもまだ足りない、そんな下品な老猿たちの侵略を許している国、それが日本なのさ。戦時中は大勢の若者たちが、お国のためかなんか知らんけど、大量に死地に放り込まれたわけだけど、自殺やらストレス死にする現代の若者は、数で戦時中に負けていませんぜ。

 この映画に皆さんは何を見ますか? 正義と情愛の韓国に対して、北朝鮮は非道だってことですか? 韓国警察の差し伸べた手を振りきって孤立してしまう若いスパイたちの愚かさですか? 他人事ですか? 国家って何なんですか。一部の勝ち組ちゃんがぬくぬくと暮らすために大勢の犠牲を払うための組織なのですか? 国民は国家という組織を維持するための消耗品なのですか? 映画の中で、北朝鮮のスパイである若者たちは、みんな陽気で素敵な好青年でした。対する彼らに自決を命じた高官は傲慢なクソ野郎として描かれていました。軍事国家の若者たちだって、みんな本当は輝いているんです。対する権力者は利権で食い膨れてゆがんだ顔をしています。これは韓国を謳い北朝鮮を批判した国家主義の映画ではありません。血の通った人間が主人公の人間ドラマです。
 国家権力に立ち向かえとは申しません。筆者だってそうはしません。あいつらすさまじい軍事力とか警察力とか大砲とか、かっちょいい戦闘機とか、いっぱい持ってます。立ち向かったところで、シラホシハナムグリがバーバリーライオンにケンカ売るくらい無謀です。命をそんな安っぽく使うよりも、僕たちわたしたちにはやるべきことがあります。文化の創造と文化の交流は、やすやすと国境を越えます。そして文化とは人々の暮らしそのものです。K-POPや日本アニメが海を越えて広く支持されたのも、日本食とキムチ作りが共に世界遺産(ユネスコ無形文化遺産)になったのも、文化の創造と交流のたまものです。世界はじつはみんな仲良しです。みんな日本アニメのコスプレしてK-POP踊るです。そうした僕たちわたしたちの築いた軌跡を、権力者たちはいつも後からノコノコついてくるのです。
 ネット社会(高度情報化社会)では、今後ますます文化が優先され政治経済があとからついてくる現象が顕著になってきます。それが人間社会の真実です。だとしたら、みなさんにもできることってあるでしょ? 筆者もこうしてグダグダとブログなど書いているわけです。

 筆者の作品のとらえ方、感じ方はともかく、ひじょうにおもしろくてとっても考えさせられる映画です。熱い涙が炭どもほほを伝います。作中のキャラたちを思い出すだけでも胸の中がジーンとなります。

2013年公開、124分。日本公開は2014年。
原題「Secretly, Greatly 」
監督:チャン・チョルス
出演:キム・スヒョン、パク・ギウン、イ・ヒョヌ

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